2月17日から接種を始めた東京病院の場合、上部機関の国立病院機構本部から「ワクチンが届く」というメールでの連絡を受けたのは前日だった。配送時間がわかったのは当日の午前11時で、到着は予定時刻から1時間後の午後2時。実際に接種を始められたのは同5時だったと、永井医師は振り返る。

「とにかく、いつワクチンが入ってくるかわからないので、予定が立てられない。先行接種は何とかなりましたが、今後は、医療従事者と高齢者がほぼ同時に接種することになる可能性があります。この状態では現場が混乱するのは、容易に想像がつきます」

 そもそも今の先行接種でいわゆる国立病院から一律に始めたこと自体、「現場の意見が反映されていない」と前出の岡医師が憤る。

「普通に考えればコロナ対応を行っている医療機関、医療従事者から接種を開始するべきでしょう。潤沢にワクチンが入っていないわけですから、そこは医療従事者の間でも優先順位をしっかり決めて対応してほしい」

■第4波に間に合うか

 実際に接種をするにあたって、どんな問題が想定されるだろうか。

 まずは人員の確保。川崎市は1月、体育館で集団接種訓練を実施した。

「問診をするのは医師で、ワクチンを接種するのは看護師。待機中の対応も看護師が行い、必要なら会場にいる医師を呼ぶという態勢を考えています。ワクチンが届いたらすぐに実際の接種が始められる態勢を作っておきたい」(岡部所長)

 接種者には、感染症やワクチンに詳しい医師以外も対応することとなる。1会場で1日医師2人、看護師4人、薬剤師1人が必要になる。市はこの確保を進めているという。

 次に時期の問題だ。第3波が落ち着いてきた今が、ワクチン接種の好機とみる専門家が多い。感染が流行している時期だと、医療機関は治療とワクチン接種の両方を行うこととなる。人手もいり時間もかかり、結果、負担が大きくなってしまうからだ。

「流行中であれば、医療従事者は診断や治療に手を取られますし、接種を受ける場所に感染者が紛れ込んでしまうと、感染リスクが高まります」(同)

 だからこそ、専門家らは緊急事態宣言が明けることによるリバウンドだけは起こしてはならないと口をそろえる。

 今の接種ペースだと第4波が先に来てしまう可能性も否定できない。そのときは五輪どころではなくなる。変異株が蔓延する前に多くの人が接種を終えることが理想だが、厚労省の調査結果では、3月9日時点で21都府県で計271人の変異株感染が確認されている。1カ月前から4倍以上に増えており、専門家も拡大傾向にあるとの見方を示している。

 最後に、もしもワクチン接種による被害が起きてしまった場合だが、改正された予防接種法ではコロナワクチンは臨時接種という位置付けで、健康被害に対する救済も国が持つ。副反応で死亡した場合は4420万円が支払われ、1級の障害が生じた場合などでも障害年金が支給される。

 最終的に「打つ」「打たない」の判断は本人に任されている。さまざまな情報を確認し、決めていただきたい。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2021年3月19日号に加筆