「みゆき族や竹の子族、窓際族……と、○○族という言葉は本当にたくさん流行りました。でも最近はあまり聞きません。『族』というのはみんなが何かをいっせいにやるから生まれた言葉で、今は多様化してしまったから出てこなくなったのだと思っています。内向きになって、行動に表すことが少なくなったネット社会の特徴でしょう」と分析した。

 NHK出身の堀尾さんはNHK独自の流行語の取り扱いを明かしてくれた。

「NHKの報道ではスラング禁止でした。ダサい、ヤバいはもちろん、サボるも禁止。民放では人気のグルメ紹介で実食したときに『これ、ヤバいですね』と言っても大丈夫ですが、NHKはダメ。グループサウンズ(67年11月24日号)も全盛時代、NHKには出入り禁止で出演してません。長髪で反社会的だとされたからで、大人気のタイガースやスパイダースも出演してないんです」

 ただしブルー・コメッツは例外だった。

「理由は簡単です。短髪だったからといわれています(笑)。スパイダースの堺正章さんは、『俺たちが髪を短くしたころに、テレビ局のカメラマンたちがみんな長髪になっていた』と言って笑ってました」

 流行は移り変わり、流行語も変わっていく。その傾向が強くなり始めたのは60年代だ。63年2月22日号では大学教授、NHKアナウンサー、国立国語研究所員の3人を集め「流行語は生きている」と題した座談会を実施したが、アナ氏は<このごろ、若い人たちのことばがグングン変っていきますね。イカスなんていうのは、もうすたれちゃって(中略)それをようやくおぼえたころはグウですよ。アタマニクルなんていうのは古くって、いまはトサカニキタ>と嘆いていた。まるで今、SNSで若者が使う新語を大手メディアが報じたときには、時代遅れになっているのと同じことがこの時代に起きていたことがわかる。

 国語学者の金田一秀穂さんは「そもそも言葉はどんどん変わっていくもの」と言う。

「言葉は時代と地域で変わるからこそ健全なんです。変わっていくものだから同世代で共有でき、連帯感につながる。大宅壮一が『流行語は時代・世相につけたあだ名である』と言ったのはまさにそういうことなんでしょう」

 最新の流行語を追いかけるばかりではなく、使われなくなった流行語にも歴史が隠れており、注目する価値はある。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2021年3月5日号より抜粋