とにかく彼女は「自身に無理難題を課す」という点において徹底的でした。冬・夏両方への出場もさることながら、特に本領であるスピードスケートに関しては、ずっと全種目エントリーにこだわり続けるなど、そのあくなき向上心と負けん気は、「男顔負け」「女だてら」といった今となっては時代錯誤な言葉で表現されてきました。まさに「聖子」という名前が放つヒロイン性とは真逆の女性像。しかし考えてみたら、大本命・聖子ちゃんこそ男顔負けのバイタリティの持ち主だったりするわけで、「名は体を表している」のかもしれません。

 競技引退後は政界に進み、国務大臣(五輪担当相)にまで登り詰め、そして今再び渦中の人となり、「聖子市場」のトップに返り咲いた聖子さん。旧態依然とした超男社会である政界からすれば、「橋本聖子」という存在は、きっと男社会における女性の「模範解答」なのでしょう。なんとも皮肉な話ですが、でもここからが「橋本聖子第2章」だと私は信じています。世のおじさんたちも、「聖子」を甘く見ると怪我しますよ。

週刊朝日  2021年3月5日号

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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ミッツ・マングローブ

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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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