七之助:お兄さんも勘太郎に対するお稽古は厳しいとは思うんです。でも父はその100倍は厳しかった。(前半の狂言師の二人が手獅子を持って踊る)前シテがダメだったら、目を見てくれない、手を握ってくれない、谷からはい上がってきても何も喜んでくれない。むしろ怒っている。(前シテが終わって)先に引っ込んで仔獅子の隈(くま)を取るんだけど、慣れてないから時間がかかる。父が引っ込んでくると、そこから地獄。父は隈を取るのが早いので横で死ぬほど怒られる。怒られたまま(獅子の精が乗り移った後半の)後シテが始まる……。幕が閉まっても次はダメ出し。これがまた大変なことになって、帰りのタクシーの中も地獄。

勘九郎:子どものころ、歌舞伎座からの帰りに車の中から見た景色は全部涙でにじんでます。

七之助:夜ご飯も地獄。翌日も学校へ行って帰ってきてまた地獄。それを繰り返してきたんですが、大人になってから僕たち二人で一致した意見がありましたね。今考えると、お客様のためはもちろんだけど、僕たちは父のために踊っていたんだってすごく思います。

勘九郎:連獅子だけではないですが、父はうまく踊れたときは本当にうれしい顔をしてくれるんです。だから全幅の信頼を寄せていました。

七之助:特に、連獅子は父が喜んでくれるために全身全霊をかけて踊った。その絆が知らぬ間に「連獅子」という演目に表れていたのではないかと思う。勘太郎もこれまで生きてきた中で一番大変だと思うけど、お父さんのためにお客様のために全身全霊をぶつけてほしいな。

■生の舞台と配信同時進行の時代

勘九郎:稽古と違って舞台に立つと愕然(がくぜん)とするんだよね。こんなにも体が動かなくなるのかって。

七之助:だからと言って、舞台では誰も助けられない。舞台は素晴らしいところだけど残酷なところもある。恥をかくのは自分だし。勘太郎もしんどいと思うけど、彼は頭もいいので考えて考えて1カ月で本当にいろんなことを吸収してくれると思う。もちろん長三郎も。

勘九郎:長三郎にはお母さんの袖萩のことを思って、愛して演じなさいと伝えています。気持ちが入っているのと入ってないのは全然違いますから。袖萩を愛していれば、あんなに小さい子どもが母親のことを介助していることがとても哀れに見えるのではないかな。

次のページ