「ほほ肉には細かい筋が多く、じっくりと煮込むとそれがゼラチン質に変わるんです。それで軟らかくしっとりとした感じの肉になります。彼らは何百年もかけて、牛肉の各部位の良さを引き出すための料理法を確立してきたわけです」

 フランス人がステーキを食べるときのひと工夫も教えてもらった。

「エシャロットを使うんです。フランス料理の生命線といってもいい食材。これを加えることで酸味が増し、肉をあっさりとおいしく食べられます」

 エシャロットというと、居酒屋で味噌と一緒に供される若ラッキョウを連想するだろうが、ここでいうエシャロットは異なり、タマネギのような見た目。若ラッキョウと区別するため、日本ではベルギーエシャロットと呼ばれている。

 牛肉を焼いた後の肉汁にみじん切りのエシャロットを入れ、白ワインを加えて煮詰める。それをステーキにのせれば、フランス料理に早変わりだ。

 先述の牛肉と赤パプリカの軽い煮込みもそうだが、重要なのは肉の焼き汁を利用すること。

「フランス人は肉を焼いた後、フライパンを洗うことはありません。うまみのもとだから。水を加えただけでソースになります。ワインを加えたらもっと高級なソースに。コクを出したいならバターも入れましょう」

 肉汁を利用し、エシャロットや香草で味と香りを調えれば、これ即ち、おフランスである。

 家庭で牛肉を食べたいなら、逸品を取り寄せるのもオススメ。巣ごもりは美味(うま)し肉で乗り切りたい。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2021年1月29日号