くどうれいん/1994年生まれ。会社員。作家。著書に『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』。
くどうれいん/1994年生まれ。会社員。作家。著書に『わたしを空腹にしないほうがいい』『うたうおばけ』。

 人生の終わりにどんな本を読むか――。会社員で作家のくどうれいんさんは、「最後の読書」に選んだものとは? 

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■2万年とチョコレート

「人生の最後に読みたい本」と言われてもうまく想像ができない。わたしの人生に最期が来る気がしないのだ。この前テレビで滝沢カレンさんが「東京タワーと同じくらいの身長になって、おおきな木のように人々の暮らしを眺めながら2万年は生きたい」というようなことを言っていて、それをわたしは詩だと思った。同じようなことを、わたしも思う。琥珀や化石になるまでこの地球を見てみたい。なので「人生の最後に読みたい本」と言うよりも「2万歳になっても読む本」として一冊ご紹介したい。

 みやざきひろかずさんの『チョコレートをたべたさかな』という絵本である。セピア色のみで描かれた、ぽてっとかわいらしい魚が、ある日ひとかけのチョコレートをたべてしまうというお話。何気ないきっかけで人生が突き動かされることがある。それは良い方向に働くこともあるし、おそろしい方向に導くこともある。この絵本におけるチョコレートが良いものなのか、悪いものなのかこの絵本は言い切らない。そこがかっこいい。andymoriというバンドの「革命」という曲の歌詞に「100回1000回10000回叫んだって 伝わらない 届かない想いは 100日1000日10000日たった後で きっと誰かの心に風を吹かせるんだ」というフレーズがあり、その歌を高校時代なんども聞いていた時のことを思い出した。誰かの人生を変えるのはあなたの文章かもしれないし、写真かもしれないし、絵かもしれないし、料理かもしれないし、ダジャレかもしれないし、じゃんけんかもしれない。表現者のみならず、すべての人の心にひとかけらの衝撃を与える絵本だと思う。

 ちなみに、わたしは4歳のころみやざきひろかずさんの「ワニくん」シリーズが好きでファンレターを出したことがある。みやざきさんはお忙しいだろうに丁寧なお返事をくださった。20年後のいま、わたしは駆け出しの作家として再びファンレターを出し、みやざきさんとメールを出来る間柄となった。わたしもまた一匹の、チョコレートをたべたさかななのだ。

週刊朝日  2020年11月13日号