杉村さんに「あなたはいいわね」と羨ましがられた舞台演劇の自由な時代は、コロナの影響で、不自由を強いられる時代へと突入してしまった。では大竹さんは、演劇から離れていた2カ月の間に、演劇の必要性についてどんなふうに考えたのだろうか。

「演劇は今絶対に必要かと聞かれたら、それはわからない。でも、長期的に見たら、人間にとって必要不可欠なものではあると思うんです。演劇は絶対に滅びないものという確信は私も持っています。以前、世界で一番古いギリシャの劇場に行ったことがあって、その時、『ここはもともと病院だったんですよ』と説明されたんです。患者の病状に応じて、『この人には悲劇』『この人には喜劇』と処方を変える。つまり、演劇というのは古代から、一つの療法だったそうなんです。芝居を見せて、それでも病気が治らなかったら手術をするみたいで、槍みたいな手術道具が置いてありました(笑)」

 ギリシャ悲劇の基本は神との対話だ。それが演劇の原点だと大竹さんは思っている。

「最初にギリシャ悲劇をやった時に、何千年も前に書かれていたものを声にすると、喜びで身体中を熱い血が駆け巡るんです。なぜかというと、それらのセリフには、天と地を結ぶ役目があるから。どんなに残酷で凶悪な役でも、血が巡って身体中が熱くなる。セリフを言っていれば、私は病気になんかならない(笑)。観る方だって、『行けー!』みたいに興奮するから、憂さを晴らすのにピッタリだと思います」

大竹さん自身、役とともに生きてきたと言うが、では、今の時代に「女の一生」の布引けいを演じる感慨は?

「布引けいは、どんな逆境にあっても希望を持って生き抜いていく女性です。私は、いい役といい演出家に出会うたびに、毎回いろんなことを教えてもらっています。父がよく『死ぬまで勉強だよ』って言ってたんですが、きっと私も、そうやってずっと学びながら生きていくんだろうと思います」

 そう真面目に答えた後で、「でも、じゃあ年を重ねるのが嬉しいかと言ったら、別に嬉しくないですけど」と茶目っ気たっぷりに話す。

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