もともと男性はプラモデルや日曜大工などモノづくりにハマりやすい。

 手芸もモノづくり。

 世間には想像している以上に手芸男子はいる。

 季刊誌「毛糸だま」(日本ヴォーグ社)の連載「編み物男子」を担当する男性編集者が話す。

「わたしも編み物をやります。編み物男子の取材を10年続けた体感でも、手芸界全体で男性が増えましたね。ジェンダーレスになりつつある世の中ですから、『男子』と枠をはめること自体がすでに古いのかもしれません」

 冒頭の男性の編み物サークルが誕生したのは2012年。夫婦で主宰する佐藤綾子さんによれば現在の会員は57人、中学生から71歳までが在籍する。

子育てが一段落して、時間ができたタイミングの40、50代がいちばん多い」(佐藤綾子さん)

 一方で手芸を趣味とするシニア人口も実は、15万人を優に超える。

 総務省が16年に実施した社会生活基本調査によると、趣味で手芸や編み物を行う60歳以上の男性は約5万8千人、和裁や洋裁は約10万人にもなる。時間にゆとりのあるシニア層が、牽引している部分もあるようだ。

 興味深いのは、理系男子が少なくないことだ。

「会員の皆さんの会話を聞いていると、IT系など理系男子が多い印象ですね」(同)

 ニット男子部会員の伊藤直孝さんは、自らも千葉県の佐倉市で「佐倉編物研究所」を主宰する。

 東京大学大学院理学系研究科修士課程を修了。元化学メーカーの研究職だった。伊藤さんは小学生のときに編み物と出合った。幼児のころから数字が好きだった伊藤さんは、家庭科の教材に載っていた、かぎ針編みの記号に目を奪われた。母親に教わり、マフラーや編みぐるみをつくってみた。高校は陸上部。編み物から遠ざかっていたが、研究職を経て出版社の編集者を辞めたとき、原点に戻った。

「数学と編み物は、考え方が似ているなと感じます。自由に編む方もいる一方で、僕は設計図にそってきっちり仕上げる理系タイプ。編み物の緻密(ちみつ)な制作過程が性に合っているし、周囲でも編み物をする理系男子は少なくないですね」

(本誌・永井貴子)

週刊朝日  2020年10月16日号より抜粋