理系編み物男子の伊藤直孝さん
理系編み物男子の伊藤直孝さん
今年2月の定例会で、編み物を楽しむ20人の男子部員
今年2月の定例会で、編み物を楽しむ20人の男子部員

 コロナ禍で編み物や刺しゅうなど手芸がブームとなっている。それを牽引するのは、なんとシニア男子。手芸リケダンも目立つそうだ。令和のニューノーマル、手芸男子たちとブームを追ってみた。

【写真】手芸リケダンも?!ニット男子部定例会の様子はこちら

 Zoom画面に、編み物好きの男性10人ほどが集合した。長崎や広島からの参加者もいる。いずれも、男子による編み物サークルのメンバーだ。手を動かしながら、思い思いに雑談を楽しむこの時間は、笑い声が絶えない。

「たった1本の毛糸が、思い思いの作品に変化する過程がたまらない」

 参加者のひとり、埼玉県和光市に住む会社員の佐藤和浩さん(60)は、3年前まではシステムエンジニア(SE)だった。生粋の理系男子だ。

 編み物に目覚めたのは40年ほど前。同僚と毎晩飲み歩く新米SEは、いつも月末は金欠状態。あるときその同僚が、

「俺たちが飲んでばかりなのは、ひまだからだ。時間がかかると聞く編み物をやってみようか」

 冗談だと聞き流していたら1週間後、同僚は編み物を始めていた。それならば、と挑戦したが難しい。おたがい地方からの上京組のひとり暮らしで、教わる相手もいない。いとこのお姉さんがくれた男の編み物の本を手本に必死に覚えた。

 実は80年代は、男子編み物ブームにあった。テレビでは、男性が挑戦する編み物コンテストの番組が放送され、小説家の橋本治さんも元祖編み物男子として、浮世絵やアイドル写真を図案にセーターを編む本などを出していた。

 30代に入ると仕事の合間をぬって講座に通い、講師の資格を取った。妻にも可愛らしいカーディガンやセーターを編んだ。

「日曜大工も少しやりましたが、道具や材料をそろえるのがおっくうで続かない」(佐藤さん)

 手軽にできる編み物は生活スタイルに合っていた。朝の通勤時間や会社の昼休み、数分の待ち時間など、すきまを見つけて手を動かす。

 サークルに入部したのは7年前。笑いながら、こうふりかえる。

「それまでひとりで向き合っていたので、男の人がごく自然に、たくさんいるんだなあと驚きました。昔は、毛糸屋さんに足を踏み入れると、おばさまたちにジロジロと見られて大変でした」

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