もともと声が高い人もいれば、低い人もいる。年齢や性別によっても声の高さは違う。だがそれだけでなく、音の高低は五十音で変わる。藤垣さんによると、子音の、特に「さしすせそ」や「たちつてと」は高い成分が、母音の「あいうえお」は低い成分が多いという。

「今回の検証でいえば、『お会計は~』の文章のなかの、会計の『か』や、2千の『せ』あたりが聞き取りにくくなります」

 こうしたことを踏まえ、マスクをしているときは、どんな点に気を付けて話せばよいか、藤垣さんに注意点を聞いた。

「一音一音“ゆっくり”“はっきり”話すことを心がけてください。必ずしも大声を張り上げる必要はありません」

 マスクを着けると、マスクが邪魔になり、口をしっかり開けて話さなくなりがちだ。そうすれば滑舌が悪くなり、さらに声がこもりやすくなる。相手にしっかり伝えたいときは、特に意識して口を動かすようにしたい。

 もう一つのポイントは、アイコンタクトだ。

 我々は会話をする際、言語だけでなく、口の形や顔の表情など、非言語的なところからもたくさんの情報を得ている。だが、マスクで顔半分が覆い隠されると、そうした部分が失われてしまう。

 それを補うのが、アイコンタクト。相手の目の表情から状況を察知して、「もう少しゆっくり話したほうがいい」とか、「繰り返したほうがいい」とか読み解きながら、会話を進めていきたい。

「新型コロナウイルスの感染予防のためのマスク生活は、これからも続くと思います。マスク会話によるトラブルを回避するためにも、こうしたマスク会話術を身につけておくとよいのではないでしょうか」(藤垣さん)

 聞き取りにくさのため、日常生活に支障が出ている場合は、別の原因“加齢性難聴”を考えたほうがいいかもしれない。前出の新田医師は、耳鳴りや難聴治療の専門家として、「マスクによる会話トラブルが、加齢性難聴に気付くきっかけになる」と話す。

「実は、マスクで聞き取りにくい高音域は、加齢による難聴で真っ先に聞き取りにくくなる音域でもあるのです」

 耳の奥には蝸牛(かぎゅう)というカタツムリのような形をした器官があり、そこには聞こえに関する神経が並んでいる。この神経はそれぞれ分担があり、入り口の神経は高い音を、奥の神経は低い音を受け持っている。

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