入り口の神経はいろいろな音にさらされるためダメージを受けやすい。高い音から聞こえにくくなるのはそのためだ。

 加齢による難聴は、個人差もあるが早い人は20代後半から始まる。多くの人が自覚するようになるのは50代からだ。

「残念ながら、一度失った聴力は、治療やセルフケアで取り戻すことはできません。ですが、そういう場合には補聴器が有効です」(新田医師)

 補聴器は若いときのような聞こえ方を取り戻すというイメージがあるが、実際はそうではなく、その人が持つ“聞こえの力”を引き出す医療機器だ。そのためには、適切に調整された補聴器を使い、聴力リハビリで衰えた聞き取る力を取り戻すことが必要だ。

 ちなみに、GNヒアリングジャパンは先の実験で、マスク着用+シートの状況で、補聴器を使った場合の聞き取り具合も検証している。その結果、マスクなしのときに近い状態にまで子音を補完できることがわかった。

「最近の補聴器の多くは、複数の聞こえのプログラムが設定でき、ユーザーが状況に応じて変えられます。自宅などマスクなしで過ごすときのプログラムのほかに、外出時にマスクありで過ごす用に高い音をやや強調したプログラムを、購入先の専門家に作ってもらい、使い分けるのがおすすめです」(前出・藤垣さん)

 新田医師によると、補聴器について相談したい場合は、日本耳鼻咽喉科学会が認定している「補聴器相談医(※)」を訪ねるとよいそうだ。

「聞こえが悪くなることの最大のリスクは、脳の機能低下や、認知症です。医学誌『ランセット』に載った研究によると、予防できる認知症の最大の危険因子が難聴であることが報告されています」

 マスクによる聞き取りにくさは、もしかして難聴のサインかも。聞こえ方に不安を覚えたら一度、専門家に相談してみよう。(本誌・山内リカ)

※補聴器相談医…日本耳鼻咽喉科学会が認定した専門医で、難聴の患者を診察・検査し、治療のほか、補聴器が必要かどうかなどを診断する。必要な場合は、補聴器販売店の紹介や補聴器選びをしたり、使い方を教えたりする。

週刊朝日  2020年10月9日号