豊原功補さん (撮影/写真部・掛祥葉子)
豊原功補さん (撮影/写真部・掛祥葉子)
豊原さんの初プロデュース映画「ソワレ」の1シーン(c)2020ソワレフィルムパートナーズ
豊原さんの初プロデュース映画「ソワレ」の1シーン(c)2020ソワレフィルムパートナーズ

 ある事件をきっかけに逃避行をする若い男女の刹那(せつな)を描いた映画「ソワレ」。外山文治監督による瑞々(みずみず)しく、革新的な作品をプロデュースしたのは俳優の豊原功補さん(54)だ。

【豊原さんの初プロデュース映画「ソワレ」の1シーンはこちら】

「外山監督の短編で老老介護を描いた『此の岸のこと』(2010年)にいたく感動したんです。若いのに老成した題材を扱うおもしろい監督だなと。一緒に食事をする機会があって話を聞いたら、一人で映画を作って配給・宣伝もして苦労をしているという。若い才能を応援することができれば、と思ったんです」

 最近の日本映画の状況に、どこか違和感を抱いていたことも理由だ。

「もう、しばらくの間、日本映画がどうも一つの景色にまとまっていったような印象があったんです。原作ありき、漫画ありき、キャストありきで、リスクを回避し、同じようなものを量産しているんじゃないか、と」

 多様性が排除され、監督のオリジナル脚本が通りにくい、という声も多く聞こえていた。

「もちろんこれまでのエンターテインメントはあっていい。でも別のステージが増えて、販路もひろがって、海外にも通用するような才能を生かせるほうがおもしろい。すぐにすべてが変わることはないけれど、でも問題意識を持っているよ、ということを伝えていかなきゃいけないなと」

 思いを同じくする俳優・小泉今日子さんら数人と「新世界合同会社」を設立。資金集めに奔走し、クラウドファンディングも募り、手探りでプロデュースをした。

 主演は活躍めざましい村上虹郎さんとオーディションで選ばれた新星・芋生悠(いもうはるか)さん。これからの日本映画界を牽引(けんいん)する若手の演技を、俳優ならではの距離感で見守った。

 芋生さん演じるタカラを「鉛筆でいうと3Hくらいの女性。でも実は3B」、虹郎さんを「純粋さと野性、危うさと強さを、まだ固体になっていないやわらかい感じで持っている」と評するなど、豊かで的確な表現力はさすがだ。

「いやいや一生懸命、言葉を探しています(照れ笑い)。今回、初めてオーディションで俳優を選ぶ経験をして、俳優の演技体にはその人の人生観や線の太さ、細さ、やわらかさや堅さが如実に表れるんだ、と思い知らされました。そして俳優はそれをより鍛錬し、表現につなげなければならないのだ、と」

 翻って、自身が演技をすることを、一瞬怖いなとも思ったという。

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