新型コロナ対策で高齢者施設の多くが家族の面会を制限している。「ブラックボックス」化した施設で、おぞましい虐待が起きていることが内部告発で明らかになった。記録に残されていたのは被害者の痛々しい傷痕と、職員による罵倒の声。閉ざされた世界で何が起きているのか──。
【録音記録】「ぶん殴るよ」…虐待が疑われるグループホーム内の驚きのやりとりがこちら
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7月、施設に他の職員がいない夜勤時間帯のこと。90代の女性利用者Aさんは、トイレ介助で夜勤担当の男性職員Xから急かされていた。
「こっち座れ。騒がなくていいから」
「ばーか」
Xはいらだった様子で、乱暴な言葉を投げかける。ようやくトイレが済んだ後、こうすごんだ。
「今後は……ビンタじゃ済まないからな」
職員によるこの信じられない発言は、東京都江戸川区の認知症高齢者向けグループホームで録音された。同施設の複数の職員が、高齢者への虐待を問題視し、本誌に内部告発したものだ。
告発した職員の一人、吉田晴美さん(仮名)が異変に気付いたのは今年4月。利用者の90代女性のおでこにたんこぶ、目のあたりには紫色にはれ上がったこぶし大のあざができていたのだ。
「利用者の顔にこんなひどいけががあるのを見たことがなく、驚きました。古株の女性職員Yが一人で夜勤に入り、その翌日の夜勤に『竹の子族の元総長』を自称する中年の男性職員Xが入ったばかり。殴られたんじゃないかと、初めて虐待を疑いました」(吉田さん)
吉田さんによると、高齢者約20人が生活するこの施設で、コロナ禍の3~7月に少なくとも3人がけがをしている。
5月下旬、90代の女性利用者Bさんが救急搬送され、大腿骨の骨折と診断され入院した。その日、夜勤に入っていたXが書き込んだ日誌には<左足の痛みを訴えていたので、確認、異常があったので所長に連絡、救急車で搬送されました>とあるのみ。吉田さんは言う。
「Bさんは柵を取り付けたベッドで寝ており、転倒のリスクはなかったはず。寝ていて、どうやって骨折したのでしょうか」