泣き叫ぶBさんを脅すようにYは言い放った。

「じゃあもう一回入院する?」

 暴力があったか音声だけではわからないが、少なくとも威圧や罵倒などの心理的な虐待が行われていることがうかがえる。

 7月末の朝には、利用者の叫び声を聞いた通行人が通報し、施設にパトカーが駆け付ける“事件”があった。通報した40代男性は本誌の取材にこう語った。

「施設から中年女性のキンキンした怒鳴り声が聞こえてきました。その後、おばあさんが『痛い、助けて』と叫んでいました」

 男性は4月ごろも同じ場所で、「ぶっ飛ばすぞ」という怒号を聞いたという。本誌が入手したパトカーが来た当日の申し送りにはこう書かれていた。

<コロナ対応もあり、換気のため窓を開けているので、今まで以上に声や会話が外に聞こえていることもあると思います。ゲスト様の声が外まで聞こえています。私たちワーカーの声も聞こえています。耳が遠いゲスト様に対して声は大きくなってしまいますが、会話の内容等注意してください>

 こうした事態には、コロナ禍で施設が「閉鎖空間」となっていることも影響していそうだ。健康リスクが高い高齢者への感染拡大を防ぐため、施設では緊急事態宣言が出た4月から家族が面会できなくなった。宣言が解除された5月下旬以降は面会が許されるようになったが、事前のアポが求められ、会える時間は15分ほど。自室でなく施設の一室での対面しかできない。こうした環境がスタッフの意識を歪めていると、吉田さんは言う。

「家族の目がないから、やりたい放題になっているのではないか。けがをさせてしまったとしても『ばれないから大丈夫』という雰囲気があった」

(井上有紀子)

週刊朝日  2020年9月4日号より抜粋