そもそも不思議な御縁だった。岐阜県の下呂温泉へ講演に出かけた時、グリーン車の前の席に、水上さんと編集者が座っていた。ペンクラブの催しなどで御一緒したことがあったので御挨拶をすると、高山へ取材旅行とのことで、私が先に失礼した。

 一泊し、翌朝下呂から乗るとまた、前の席に水上さんがいらっしゃるではないか。そこですっかり話が盛り上がり、勘六山へ伺うご縁が出来たのだった。

 結局、交通の便を考え軽井沢で夏を過ごすことになった私たちは、ちょくちょく勘六山を訪れ、角りわ子さんや蕗子さんとお目にかかり、水上さんが亡くなった後も編集者と一緒に伺っていた。

 久しぶりの訪問、竹紙の工房は閉まっていたが、勘六山房の窓に人影があった。蕗子さんだった。簡素な仏前に線香を手向ける。

 足許近くまで竹が這っている。いつの間にか生えたのだ。障子の破れは、一時ハクビシンが住みついて出入りしたせいだろう。声をききつけて角りわ子さんが会いに来てくれた。

週刊朝日  2020年7月31日号

■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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