元気じゃない人は歯をむき出しにして「カカカカっ!」とは笑わないのです。

「こないだね……」。師匠が続けます。「いっちゃん(なぜか師匠は私のことをいっちゃんと呼ぶ)の出てたテレビを拝見しましたよ」

 私「(汗)拝見だなんて! 恐れ入りますっ!」
 師匠「あの、背の高いイイ男とやってる『落語』のやつね」
 私「東出さんとの『落語ディーパー!』(Eテレの落語を語る番組)ですね?」
 師匠「そう、それ。いろいろ話してたね。『鼠穴』(人情噺、師匠の得意ネタの一つ)についてさ」
 私「いやはや……すいません」
 師匠「いや、謝ることはないですよ。まぁ、いろいろ考えるのは……いいことだぁね……カカカカっ!」

『……』のときの師匠の全身から出る「殺気のようなもの」。「お前みたいな『赤子』に何がわかる?」と言ってるような……。師匠は笑いながら高座へ向かっていきました。

 この秋、師匠は名前をご子息の金時師匠に譲り、なんと自らは「金翁」を襲名されます。その頃、師匠にはきっと翼が生えてることでしょう。金馬師匠、いつまでもお元気で! 師匠の背中に乗って飛んでいきたい!

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2020年7月24日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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