また八味地黄丸(はちみじおうがん)は、下肢の冷え、下肢痛、腰痛、しびれ、排尿障害などに処方する漢方薬で、遠志は含まれていないものの、アセチルコリンを増やす効果があるといわれている。不眠やイライラに効果が見られる抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)もアセチルコリンを増やすという報告がある。

 現在、認知症の前症状である軽度認知障害(MCI)に対しても、漢方の役割が期待されている。MCIには有効性が認められる西洋薬がなく、臨床現場では薬物療法以外の対処法をアドバイスしている。

「MCI患者の身体症状や精神症状の治療で漢方薬を用いる際に、アセチルコリンの増加作用が見られる漢方薬を選択することで、MCIの認知機能が改善する可能性はあります。今後のエビデンスの蓄積が必要と考えます」

 人参養栄湯など食欲低下や虚弱状態を改善する漢方は、認知症の進行に伴い、心身ともに弱っている人の下支えをする補完治療だ。高齢の認知症患者が増加する今後、重要な役割を担うことになる。(ライター・伊波達也)

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週刊朝日  2020年4月17日号