筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授 スポーツ健康システム・マネジメント専攻 水上勝義医師
筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授 スポーツ健康システム・マネジメント専攻 水上勝義医師
認知症に対する主な漢方薬の効能 (週刊朝日2020年4月17日号より)
認知症に対する主な漢方薬の効能 (週刊朝日2020年4月17日号より)

 ひとたび発症すると根治は難しく、進行を遅らせるための治療が行われる認知症。そんな認知症に対して、漢方薬の有効性を示す研究が報告されている。一般開業医でも認知症を診る機会が多くなることから、漢方薬の効用がますます重視されている。

【表】認知症に対する主な漢方薬の効能はこちら

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 漢方といえば、西洋医学の薬と比べ、ゆるやかな効果で、頭痛、冷え、便秘など、日常頻発するさまざまな症状を緩和する。そんな印象を持つ人は多いだろう。

 同時に、さまざまな病気に対して使われる西洋薬の薬物療法で生じる副作用の諸症状を抑えるために漢方は使われている。

 さらに、現在の西洋医学では根治へ導くのが難しい慢性病や難病に伴う症状を緩和したり、進行を遅らせたりする役割も果たす。

 そんな漢方の役割で現在注目されているのが、認知症に対する効果だ。

 認知症は、アルツハイマー型、血管性、レビー小体型が3大疾患と言われる。

 がん、心臓病、脳疾患と並び、超高齢化社会において対策が急務な最重要疾患といえる。認知症に対する漢方の効果についてどのような研究が進み、実際の臨床の現場でどう使われているのだろう。

「認知症の症状は三つに大別されます。一つは記憶障害、見当識障害などの認知機能障害です。二つ目は行動・心理症状。近年ではBPSDといいます。三つ目は神経症状や身体症状です。このなかでBPSDに対する漢方薬の有効性に対する研究が進んでいます」

 そう説明するのは、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授の水上勝義医師だ。水上医師は精神科医として認知症の治療に携わるなかで、漢方による認知症へのアプローチを模索し研究に従事してきた。

 認知症を発症している高齢者は、薬剤の有害事象が出やすいため、安全性を考慮した薬物療法が重要だ。「BPSDには、これまで向精神薬が使われていましたが、2005年に死亡率の問題で認知症には使いにくくなりました。そこで注目されたのが漢方薬です」

 1984年、高齢者の情緒障害に対して抑肝散(よくかんさん)が効果があるという報告が出たが、その後研究は進んでいなかった。水上医師が2004年に1例の症例報告をした頃から、東北大学や筑波大学などでさまざまな研究が始まった。現在では、抑肝散のBPSDに対する効果に関するエビデンス(科学的根拠)が蓄積されている。

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