その日は諦めて、またお小遣いを貯めて出直せば良いのです。いつになってもいいじゃないか。それなのに私は「あのー……『ファミスタの87年版』ください!!」と言っていました。今、必要としないゲームソフトを買ってしまいました。「本体なんかべつに欲しくないですよ。いや、家にありますから。へー、ファミスタ新しいの出たんだ!? やってみよっかなー」みたいな顔をして……。

 本体がないので、当然買っても意味のないファミスタを握りしめて帰宅後、大人の理不尽さと自分の不甲斐なさに悔しくて泣いた私。「早く大人になってお金稼いで本体買うぞ」と誓ったあの頃、大人になってマスクなんかが手に入らなくなる世界が来るとは夢にも思わなかった。マスクがファミコン本体の値段で売られてたりするんだよ、どう思う? 小4の俺よ。

週刊朝日  2020年4月3日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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