■7位 『金剛の塔』木下昌輝

 飛鳥時代の578年に創業し、現存する企業としては世界最古とされる木造寺社建築の金剛組。百済から海を渡ってきた宮大工たちの同社創業の思いを描く。

 宮大工たちが大阪・四天王寺の五重塔などに結晶させた技術は代々受け継がれ、塔は地震でも倒れなかった。東京スカイツリーといった現代の高層建築にも生かされている「心柱構造」の誕生と継承を活写する。

「聖徳太子によって百済から連れてこられた宮大工たちを描いた傑作連作長編。五重塔が今につながる高層建築のルーツだったとは!」(大垣書店・井上哲也さん)

「四天王寺の五重塔をめぐり、時空を超えた物語が重なり合っていく。技能小説としても興味深い作品だ」(書評家・西上心太さん)

■8位 『落花』澤田瞳子

 平安時代中期、音楽に心を奪われた仁和寺の僧、寛朝は「至誠の声」を求め、東国へと旅に出る。多くの個性的な人物が登場するなか、お経に節を付けて唄う梵唄(声明)に秀でた寛朝は、平将門の乱に巻きこまれていき、物語はスリリングな展開をみせる。第161回直木賞と第32回山本周五郎賞の候補作。

「梵唄という音楽への思い入れを軸に、将門の義と死から悟ったものを通して、主人公の変化をたどる点に着想のユニークさがある」(文芸評論家・清原康正さん)

■8位 『真実の航跡』伊東潤

 太平洋戦争下の1944年3月、インド洋を巡航中の大日本帝国海軍の重巡洋艦「久慈」は、船影を発見する。拿捕か砲撃か。乾艦長は迷った末に、高角砲を発射、イギリス商船が沈みかけると一転して救助し、112名を捕虜とする。軍の命令書と乾の上官・五十嵐の指示、そして乾のそれらへの忖度の末、最悪の悲劇が起きる。

 戦後BC級裁判で乾と五十嵐を担当する日本人弁護士の奮闘。絶望し「法の正義」について考えるが、やがて戦後日本人の生き方に希望をつなぐ。

■10位 『火神子(ひみこ)』森山光太郎

 弥生時代の奈良盆地。登美毘古が大王に即位し泰平の世が続いていたある日、実弟・安日彦が変わり果てた姿で帰ってきた。敵は「天孫」を称する御真木。大陸を祖国とする御真木はこの地を征伐し、新たな国を創ろうと殺戮を繰り返す。
 
 登美毘古には一人娘で15歳の翡翠命がいた。老人と山奥で暮らしていたが、自らの宿命を受け入れ、弱き者を救う。国を統べるのにふさわしい者はどちらか。著者は史上最年少の27歳で、最後となった第10回朝日時代小説大賞を受賞。

「新人のデビュー作にして古代史小説の収穫。27歳の若さでこれだけの物語を書いてしまう、作者の才気が素晴らしい」(文芸評論家・細谷正充さん)

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号