今年の6月から始めた引っ越し作業がまだ終わっていないようで、最近のスケジュールを聞くと、「一昨日は、すごく忙しかった!」と、あったことをつらつらと話し始めた。

「劇作家協会では、生徒を募集して、1年間、週一で劇作家になるためのセミナーを開いているんです。その担当が一昨日は私でした。講義は夜から。最近、スマホに変えて、いろんなセッティングが自分じゃできないから、専門の人に頼んでいたんです。その作業を朝9時から始めたのに、お昼をすぎても全然終わらない! 午後、銀座に用があったので、それはタクシーで行って、終わったら事務所まで夜のセミナーで売る本を取りに戻りました。そこで経理の人と打ち合わせをして、セミナー会場の近くの中華屋で焼きそばを食べて、授業に行って、授業の後には夜中の1時まで懇親会! 東大の劇研の人から、70代で初めて演劇をやる人まで、学生さんに質問攻めにあいました(笑)」

 今年の夏は、自らが主宰するオフィス3○○の公演で、小日向文世さんとのんさんを迎え、「私の恋人」という舞台を上演し、全国を回った。この冬は、劇作家の北村想さんが、坂口安吾に着想を得た新作戯曲「風博士」に出演する。

「私は、新橋演舞場で上演されるような、笑いと人情を扱ったわかりやすい商業演劇にも出演すれば、自分の劇団では、アングラっぽい作品を書いたりもしています。『風博士』はその“中間”という感じ。不条理劇だけれど、平和を希求するテーマははっきりしている。私が自分の劇団のために書く芝居は、大体ABCという全然考えの違う人を登場させ、観てくださる人に、その中に自分を発見してもらう。答えを提示するのではなく、『さあ、あなたはどうですか?』と問いかける。それが、自分の演劇だと思っているんです」

 10代の頃はテネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」を観て、救われた。

「ハンディキャップを持つ、とても内気な姉ローラが登場しますが、実はそのガラスのように繊細な存在こそが、周りの人たちの支柱になっていたという物語です。それを観た時に、『私も、自分のようなマイノリティーの人たちのために芝居を書こう』と思ったのです」

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