「自宅でも酸素吸入は可能ですし、今は強い鎮痛効果をもたらす医療用麻薬も使うことができます。痛みを上手にコントロールできるよう、患者さん自身がボタンを押して痛み止めを注入できる持続注射という方法もあり、実際に多くの方が利用されています」

 千葉県松戸市で開業医を中心とした連携医療によるまちづくりを進める、いらはら診療所院長の苛原実医師は、在宅での緩和ケアの利点を指摘する。

「医療用麻薬の使用量が減った患者さんも少なくありません。痛みには肉体的なものだけでなく、精神的なものもあります。もちろん人によって違いますが、わが家で治療を受けられるという安心感が精神的な痛みを軽減させて、それが肉体的な痛みも軽くするようです」

 心身一如とはまさにこのこと。体の症状がとれたことで気持ちが軽くなり、前向きな言葉を発するようになる患者もいるという。

「人生の最終段階でもっとも大切なのは、その時間を豊かに過ごすこと。実践するのはとてもむずかしいことですが、症状がなくなると夢や希望を話されるようになります」(苛原医師)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2019年10月18日号より抜粋