年金問題に関する野党の合同ヒアリング (撮影/多田敏男)
年金問題に関する野党の合同ヒアリング (撮影/多田敏男)
年金は大きく目減りする (週刊朝日2019年9月13日号より)
年金は大きく目減りする (週刊朝日2019年9月13日号より)
目減りする年金への主な対処法 (週刊朝日2019年9月13日号より)
目減りする年金への主な対処法 (週刊朝日2019年9月13日号より)

 老後の頼りになるはずだった年金。国の検証の結果、約30年後には現在より2~3割目減りすることがわかった。政府は制度が100年持続可能だと安心ばかり強調するが、もはや信用できない。私たちにできるのは死ぬまで働き、生活費を切り詰め、自力でお金をためること。“年金サバイバル”を生き抜こう。

【図を見る】年金は大きく目減りする?

 厚生労働省は8月27日、年金財政検証の結果を公表した。公的年金の100年先までの見通しを5年に1度チェックするものだ。

 厳しい財政状況が改めて示されたが、安倍政権は年金制度は100年先でも安心だとする。支払う年金額を抑えるので制度自体は維持できるかもしれないが、年金だけでは暮らしていけないのは明白だ。安倍政権は老後資産の「2千万円不足」問題を否定し、さらに、年金だけでは暮らしていけない事実まで覆い隠そうとしている。私たちは2度だまされるかもしれないのだ。

 年金に詳しい社会保険労務士の北村庄吾さんはこう解説する。

「自分自身で老後の備えをしないと、暮らしが立ち行かなくなることがより明らかになりました。『相当甘い』経済条件の前提なのに、想定した六つすべてのケースで年金額が大きく目減りします。年金で老後の生活費をどこまで賄えるかを、これまで以上に知っておく必要があります」

 ではどれだけ目減りするのか。検証では、平均的な収入で40年働いた会社員と専業主婦の2人家庭を「モデル世帯」に設定。経済成長率や物価・賃金上昇率、運用利回りといった条件を変えて、年金額の見通しを出している。

 ここでキーワードになるのが「所得代替率」という年金水準を示す指標だ。受け取り始める時点の年金が、その時点の現役世代の平均的な手取り収入の何%にあたるかを示す。数値が低くなれば、それだけ価値が目減りすることになる。

 モデル世帯の夫婦2人が2019年度に65歳で年金を受け取り始めるときの額は月22万円。所得代替率は61.7%。自営業者らが入る国民年金だけだと額は13万円、所得代替率は36.4%だ。

 高成長が続き働く人も増える楽観的なケースでも、所得代替率は46年度に51.9%まで下がり、年金は約2割目減りする。国民年金だけの人は約3割も目減りしてしまう。

 マイナス成長が続く悲観的なケースはさらに深刻だ。52年度には国民年金の原資となる積立金が枯渇。現役世代が納める年金保険料と国庫負担だけで賄うことになり、所得代替率は53年度には37.6%まで低下。年金額は約4割、国民年金だけだと実に半分ぐらいまで目減りする。

 標準的な場合の年齢ごとの年金額の見通しは、どの年齢でも、受け取り始めてから目減りし続ける。

 検証結果のように年金が2~3割も目減りすれば、老後の生活は苦しい。ここで思い出されるのは、老後の生活資金は2千万円不足するという問題。

 金融審議会の報告書では、総務省の家計調査をもとに、夫65歳以上、妻60歳以上の無職高齢夫婦世帯が平均寿命まで20~30年間生きる場合、計1300万~2千万円の蓄えの取り崩しが必要だと指摘した。

 年金だけでは老後の生活が成り立たないという「不都合な真実」に、政府は報告書の受け取りを拒否。安倍晋三首相自ら年金制度の安心をアピールした。

 今回の検証結果を見ると、不足額は2千万円どころではないことがわかる。仮に年金の目減り分だけ家計の赤字が増えるとすると、取り崩しが必要な額は1千万円以上増えて、3千万円を上回るケースも想定される。

 年金を頼りに暮らしていこうと思っていた人たちにとっては、将来の不安が高まる。国民年金だけしか入っておらず、保険料の未納期間があるような人はなおさらだ。第一生命経済研究所の副主任エコノミスト、星野卓也さんは、ロストジェネレーションとも呼ばれる「団塊ジュニア」の世代が心配だという。

「この世代は2040年前後には年金を受け取り始めますが、十分もらえない人が増えると予想されます。蓄えがなくなる人や、働けなくなる人も想定されます。社会保障制度の充実を考える必要があります」

 国民年金は満額でも1人当たり月6万5008円(19年度)しかもらえない。年金だけで生活できないとなれば、蓄えがなく働けない高齢者らは、生活保護に頼らざるを得なくなる。

 立憲民主党の長妻昭・衆院議員はこう訴える。

「このまま国民年金の下支え策がないと生活保護が高齢者の年金代わりになってしまう。生活保護に占める高齢者世帯の割合は半分を超えました。今後はロスジェネ世代が老後を迎え、大変なことになります」

 ここまで見てくると、年金制度が安心どころか「大崩壊」していると言っていいことがわかる。厚労省は制度を維持しようと、厚生年金の対象者の拡大を検討している。いまは60~70歳の間で選べる年金受給開始時期は、70歳超まで遅らせる方向だ。国民年金の保険料の納付期間をいまの20~59歳の40年から、20~64歳の45年に延ばす可能性もある。

 私たちにとっては負担増だが、こうした対策を取っても、前出の北村さんは抜本的な改善にはつながらないという。

「年金を受け取るのを我慢して働き続ける社会が、果たして『バラ色』と言えるでしょうか。現役世代が高齢者を支えるいまの制度はもはや限界に近い。本来ならいまの制度に代わるあり方を議論すべきです」

 少子高齢化で年金制度の維持が難しくなっているのは、運営している政府が一番よく知っている。政府は国民に厳しい実情を伝えて早めに議論を開始すべきだが、安倍政権は逃げ続けている。野党側は今回の検証結果を参院選前に公表するよう求めていたが、厚労省は発表を遅らせた。参院選で年金問題が争点になるのを避けたとみられる。

 政府が信用できず年金も当てにならないなか、私たちは自分の身は自分で守るしかない。下記に主な対処法をまとめた。まずやるべきは、できるだけ働くこと。60歳で定年は過去の話で、「もはや老後はない」と言っても過言ではない。給料が高くなくてもいいので、健康なうちは最後まで働いて家計を支えよう。今の年金水準を維持するためには、現在20歳の人は65歳を超えて働き続けなければならないという試算もある。

 収入があり蓄えに余裕があれば、年金の受給開始年齢を遅らせるのも有効だ。前出のように、将来は70歳超まで遅らせることも選択できそうだ。

 支出を切り詰めることもできる。年金暮らしでは生活費を減らす努力は欠かせない。光熱費や通信費などの固定費は削減効果が大きい。最近は新規参入業者の割安サービスや、格安スマホが普及するなど選択肢が増えている。買い物や外食では、高齢者向け優遇制度やポイント割引を見逃さないように。

 これから年金をもらう世代は貯蓄や投資で将来に備えたい。貯蓄は無理なく地道に。投資は元本割れのリスクがあるので、長期分散投資を心がける。「NISA(ニーサ)」といった税制上有利な制度もある。

 個人で入れる私的年金もある。積み立てたお金が所得から控除されたり、運用益が非課税となったりする個人型の確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」はお得だ。民間の年金保険もある。いったん入ると途中解約しにくいので、生活に余裕のある範囲で無理なく活用する。

 年金の財政検証は今回で終わりではない。5年後は、さらに厳しい数字が突きつけられる。年金大崩壊のなかで生き抜く基本は自分で考え準備すること。100年安心という言葉に惑わされず、やれることはすぐに始めて、サバイバルしていこう。(本誌・池田正史、浅井秀樹、亀井洋志、多田敏男)

■目減りする年金への主な対処法(専門家への取材をもとに編集部作成)
・できるだけ働き続ける
60歳で定年は過去の話。健康なうちは働いて年金以外の収入を確保しよう。保険料の支払期間が65歳まで延びる可能性も

・受給開始年齢を遅らせる
1カ月繰り下げで年金額が0.7%増額。最高70歳まで繰り下げると42%増える。将来は繰り下げ可能時期を75歳まで延長か

・生活費を切り詰める
年金暮らしでも支出は減らせる。光熱費や通信費などの割安なサービスを探す。ムダを省いて、ポイント割引も利用する

・自力でためて運用
若いころから少しずつ地道に貯蓄する。投資は税制優遇がある「NISA(ニーサ)」を利用。リスクも高いので長期分散投資を自主的に入れる年金の活用

・個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」や国民年金基金は税制面で有利。個人年金保険は途中解約による元本割れに注意

週刊朝日  2019年9月13日号より抜粋