遺骨を“粉骨”する人が増えている。粉骨して海洋散骨や樹木葬というかたちで自然に返すためだ。背景には、少子高齢化で墓守が少なくなっているという現実がある。粉骨や海洋散骨の現場はどうなっているのか。ジャーナリストの田茂井治氏が潜入取材した。
【写真】粉骨の作業の様子。乳鉢でひたすら骨をすりつぶしていく
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「“私の”はそのうち娘が持ってくるからよろしくね」
梅雨明け前の東京都江東区。住宅地の一角で、高齢女性はそう言って路地に消えていった。小さな木箱を抱えたその女性の背中が小さくなるまで見送っていたのは甲斐浩司氏(52)。「琉宮海葬」というサービス名で、遺骨の粉骨処理と海洋散骨などを手掛ける「パイル21」の代表だ。
高齢の女性は数年前に亡くなった旦那さんのそばにいたいという思いで、田舎のお墓から遺骨を引き揚げ、甲斐氏に粉骨を依頼。5分の1程度になった旦那さんを引き取りに来たのだ。後日、自宅に近い納骨堂に大半を納め、一部を自宅の仏壇に分骨するという。
近年、このように骨をパウダー状にする「粉骨」の希望者が増えている。宗教学者の島田裕巳氏が言う。
「少子高齢化で墓守がいなくなり、墓を維持できない、墓をつくってもしょうがないと考える人が増えた。その結果、粉骨して海に撒いたり、樹木葬というかたちで自然に返す方法を選択する人が増えています」
現代ならではの理由で粉骨を希望する家族も多い。前出の甲斐氏が話す。
「死んでまで面倒をみたくないと『粉骨してそちらが知っている納骨堂に送っておいて』と遺骨をゆうパックで送って、その後、連絡が取れなくなる人もいます」
実際に粉骨する現場を見せてもらった。閑静な住宅街にある“粉骨場”にはゆうパックで届いた遺骨が山積みになっていた。
「多い日には20柱の遺骨が届く。ピークの10~11月は月に700柱の粉骨をお願いされる」という。
届いた遺骨の保存状態はさまざまだ。火葬した遺骨を骨壺から出して墓下に納めていた場合は、周囲の土ごとゆうパックで送られてくることも。土と骨を振り分け、“洗骨”する必要がある。一方で、骨壺ごと墓下に長く安置されていた遺骨も大半は洗骨する。