「一見すると密閉された骨壺ですが、内部に結露が生じて水浸しになっている遺骨も多い。昔の骨壺は“建て付け”が悪いのか、隙間からイモリが入って、中に卵を産みつけていることも」

 そう話しながら、遺骨を洗う甲斐氏。その合間に、試薬を取り出し、骨が浸かった水につけた。

「アスベストと同程度の高い毒性を持つ六価クロムの含有量を検査します。火葬場の耐熱ステンレスと耐火煉瓦から放出されて遺骨に吸着するんです」(甲斐氏)

 濁った水につけた試薬は赤く変色。環境基準を上回る六価クロムが含まれていることを意味する。

「粉骨して土に撒くのであれば、有機質の土壌だと六価クロムは無害な三価クロムへと自然と変わります。しかし、海はアルカリ性で中和できない。だから、海洋散骨する場合は、無害化する必要がある。回りまわって、発がん性物質を含んだ状態の遺骨を海に撒くのは好ましいことではない」(同)

 乾燥機にかけたら、いよいよ粉骨だ。磁石を片手に、遺骨から異物を取り除く。棺桶に使用された釘などを取り除くためだ。そのほかにも指輪や金歯、インプラントに使用された金属などが混ざっていることも。

 異物を取り除いた後、遺骨を乳鉢に移したら、ひたすら手作業で骨をすりつぶしていく。料金はサイズによるが、最高で3万5千円。機械で粉骨する場合は洗骨込みで3万2千円からだ。

 こうした粉骨業者は需要の増加とともに、近年急増している。手作業で行うなら、ヤフオクで2万円も出せば、乳鉢などをそろえることができるという。そのため、マンションの一室で粉骨を副業のように行っている業者も。おのずと、六価クロムの無害化をせず、ただ粉骨するだけの業者もいるという。無害化は自主ルールにすぎないのだ。

 海に散骨する業者も乱立し始めている。甲斐氏から依頼を受けて時折、船を出している「ビッグタックマリンサービス」の船長が話す。

「需要が増えたことで、船を持っている葬儀屋が散骨を始めたり、遊漁船と契約して散骨に乗り出したりする業者も増えている。普段、船を泊めている港でも、プレジャーボートや、釣り具を持たない客を乗せた釣り船が沖合に向かう様子を頻繁に目にします」

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