過去2度落選した芥川賞。今回の選考会当日、受賞の知らせに、「ウソですよね」というのが、そばにいた四本への第一声だった。候補作に選ばれた連絡を受けたときは、

「今日、やばい電話がかかってきました」

 と伝えられたという。

「普通の人にありそうな名誉欲がない人だな、と思います」(四本)

 そんな今村さんは本屋に自作が並んでいると、いまだにびっくりすることがある。そして読者の手紙や感想を読むのが大好きだ。

「いろいろな読み方があるんだ、とうれしくて」

 何より書くことに妙味を感じている。

「いやだと思うときのほうが多いんですけど、書き続けられた理由はやっぱり楽しいからだと思います」

 どんな心持ちだろう。

「集中しているときが楽しいです。もう我を忘れている感じです。自分がなくなる感じです。うまく表現できないんですけど」

 デビューから9年間で一番変わったこととして、

「(書く上で)開き直ることができたというか、失敗してもいいやと思えるようになりました」

 と明かした。

 いつまで書いていたいですか?

「本当に書きたいものがない、というときまで」

 そんなときはきっと来ないだろう。(本誌・木元健二)

週刊朝日  2019年8月2日号