「執筆の一番のモチベーションは締め切りを守ること。自分の中のものを絞り出すように創作しています」

『むらさきのスカートの女』に描かれた、ホテル清掃の現場。今村さん自身がホテル清掃のアルバイトをした経験をもとにした。「ただし、作中の職場で起きているできごとはすべて創作です」と今村さんは語る。

 大学卒業後、20代半ばから5年ほど、大阪のホテルで清掃のアルバイトに取り組んだとき、「天職かもしれない」と思ったという。力仕事で最初は体のあちこちが痛くなったものだが、きれいにしていくこと、働くことが楽しい、と初めて実感する。

 転機になったのは10年ほど前。ホテルのバイト先から突然、明日は休むように言われることが増え、「何かしなければ」と考えた。手元にあったノートに頭に浮かんだことを書き付けた。やがて初めて書き通す作品が生まれ、デビューに至る。

 そもそも独りでいることが好きで、人付き合いは苦手だ。幼いころからおとなしくて、特定の人としか話さなかったという。

 保育園に通う2歳の娘がいる。「ママ友は?」とたずねられると、

「いません。話しかけられると緊張して何を話したらいいのかわからないんで」

 と苦笑した。

 出産前、子どもはすこし苦手だったが、いまはよその子もかわいい、と思う。『むらさきのスカートの女』は作品内に出てくる、成人した女性と子どもが交流する場面が書きたくて、物語を着想していった。

 娘と一緒に午後8時半に寝る。自らは午前2時半に起き、昼もパソコンの前に座り、1日5時間は知恵を絞る。それが、

「とても長いです」

 とつぶやき、記者らを笑わせたこともあった。

 活力源はお酒と、うどんなどにかける七味唐辛子。甘い物好きで「コンビニで買うチョコレートでも何でも」と言う。

 自然体なところが巧まざるユーモアの源だろう。

 朝日新聞出版の担当編集者、四本倫子は話す。

「『むらさきのスカートの女』の書店向けのサイン色紙には『友達がいない女の人を書きました』と書かれています。本当にあっけらかんと『私自身、友達いないんで』とお話しされていました。衒(てら)いがない人です」

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