男性が青葉容疑者の部屋へ行くと、いきなり左手で胸ぐらをつかまれ、右手で髪を引っ張られたという。

「おまえ、殺すぞ。うるせえんだよ。こっちは余裕がねぇんだからよ。黙れ」などと、10分間ほど同じ言葉をくり返されたという。

 男性が続ける。

「殺すぞと言われ、本当にやられるんじゃないかと怖くなりました。カッとなって言ったというより、本気なんじゃないかと思いましたから」

 こうした異常な行動が京アニの事件につながるのか、動機は不明のままだが、今回の犯行を頭に思い描き、実行に至った経緯は何だったのだろう。

 現場付近に残されていた青葉容疑者のものと思われる手提げカバンには、包丁数本とハンマーが入っていた。ガソリンや多数の凶器を準備しており、犯行の計画性をうかがわせる。

 ある捜査関係者によると、「犯行の何日か前に、公園に(青葉容疑者が着ていたのと似た)赤シャツを着た男がいたらしい」「同じ姿の男が事件前日、京アニ付近をうろついていた」との目撃談もある。

 先の捜査関係者によると、青葉容疑者は、20リットル入りの携行缶2個分のガソリンを、近くのスタンドで買ったという。その際、店員が何に使うのか聞くと、「機械の関係、発電機で必要」などと言ったという。

 青葉容疑者は、それを台車に載せて京アニに向かい、スタジオに押し入った。

「(青葉容疑者は)ガソリンをまいて、いきなり火をつけたようだ。入ってきてすぐ火をつけ、とんでもないスピードで火が回った。1階は火の海になるまで1分もかからなかったという人もいる」(先出の捜査関係者)

 自身もやけどを負い、逃走した青葉容疑者は、現場から南へ100メートルほどの住宅街の道路わきで倒れ込んだ。そのときの様子を目撃した住人が語る。

「外に出ると、赤いTシャツの男が仰向けに横たわっていた。髪はちりちりで、Tシャツやジーンズにも焼け焦げた跡がありました。靴は履いておらず、足の裏側も真っ赤にやけどしていた」

 そこへスタジオから追いかけてきた従業員が青葉容疑者を見つけ、駆け付けた京都府警伏見署の署員に「こいつが犯人だ」と説明した。青葉容疑者は署員から「どうしてこんなことをした?」と問われると、怒ったように「小説を京アニが盗んだ」「社長と話がしたいから京都に来た」などと言っていたという。

 青葉容疑者は、一方的な思い込みから恨みを募らせ、異常な殺意を抱いていったということだろうか。

(本誌・岩下明日香、上田耕司、亀井洋志、羽富宏文/今西憲之)

週刊朝日  2019年8月2日号

著者プロフィールを見る
上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

上田耕司の記事一覧はこちら
著者プロフィールを見る
今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

今西憲之の記事一覧はこちら