林:読者は若い女性が多いんですか。

辻村:サイン会をすると、若い女性も多いんですけど、男性も同じぐらいの数いるんですよ。

林:まあ。私なんて98%女性で、男性なんてまず来ないですよ。辻村さんの本は、毒があるようでいて健全さがあるから、それが皆さんに読まれている理由じゃないですかね。私世代の女の作家ってクセがある人が多いけど、このごろの若い作家の方って、ほんとにさわやかな感じで、しかも辻村さんの世代の作家って粒ぞろいですよね。

辻村:去年、島本理生さんが直木賞を受賞したのもすごく嬉しかったし、刺激になりました。個別に連絡をとるだけが友達じゃなくて、つながり合える同業者がいることも心強いし、林さんや他の先輩の作家さんたちが今も第一線でおもしろいものを書き続けていらっしゃることも、励みになります。

林:30代の終わりから40代にかけての女性作家は、精力的にすごいものを書いてますよね。辻村さんの世代は結婚もちゃんとしてるし、私生活も充実してますよね。

辻村:結婚して子どもがいる作家さんも今は多くて、しかもそれを公にできるようになったのは、時代の流れの中で林さんたちにしてきていただいたことだと思います。

林:瀬戸内寂聴先生が「結婚して子どもを産んで、そんな幸福な女の作家にいいものが書けるわけないでしょ」ってよくおっしゃいますけど、辻村さんに限ってはそんなことなさそうですね。

辻村:最初はすごく怖かったです。結婚することでものを書いていく強さを失ってしまうのではないかと思ったこともありました。だけど、安定しているからこそ量が書けるということもあるかもしれないし、その時々で自分が影響を受けてしまうのだとしたら、その影響も全部含めた上で書いていく一生があってもいいなと思ったんです。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年7月5日号より抜粋