林:素敵なお父さま。子どものときから本が好きで、最初はミステリー作家になりたかったんですか。

辻村:はい。江戸川乱歩や横溝正史、ホームズなんかも大好きでした。

林:書き始めたのは高校生のとき?

辻村:書き始めたのは小学校3年生ぐらいのときで、大好きだったジュブナイル(少年少女が主人公の小説)をまねて夢中で書きました。

林:何かに発表したんですか。

辻村:発表してないです。当時はただただ小説を書くのが楽しかったんですね。宿題の作文とは違って、自由に遊びみたいな気持ちで書いているという感じがあって。

林:高校は山梨学院の付属ですよね。進学校で、そこの特進コース。

辻村:はい。勉強中心の息が詰まりそうな学生生活でしたが、その反動で、デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』という小説の元になる話を授業中に書いたんです。ノートとか教科書で隠しながら。授業が終わると友達が「どのぐらい進んだ?」と言ってきて、休み時間に読んでくれるので、1時間ごとの連載みたいな感じで(笑)。今考えると楽しい学生生活でした。

林:それはミステリーっぽいものですか。

辻村:そうですね。犯人当ての要素があって、みんなが「続きが読みたい」と言ってきたときに、私はプロになれるかもしれないと初めて思ったんです。でも、大学中にはプロになれなくて、その後OLになって3年目に書いた小説が受賞して(メフィスト賞)、高校時代の友達には「いつかプロの作家になれると思ってたから、べつに驚かない」って言われました。

林:ミステリーってすごいテクニックと頭の構造が必要でしょう。

辻村:そうですね。ただ、私の場合はミステリーというより、読者の方がミステリーだと思わなくても読める小説をミステリーの手法を使って書いているという感じでしょうか。青春小説を書いても恋愛小説を書いても、どこかに事件の影があったり、何かしらの秘密が真相のように明かされる。だからかろうじてミステリー作家と名乗らせてもらっています。

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