このほか、福岡県久留米市、神奈川県海老名市、栃木県小山市などでも、個人賠償責任保険の保険料の一部または全てを市が負担する制度を実施している。

 一方で、神戸市が19年から、市民税に1人当たり年間400円を上乗せする形で、診断助成制度と事故救済制度を開始した。

「神戸モデル」と呼ばれるこの制度の特徴は、認知症の人が起こした事故に関して賠償責任の有無にかかわらず、市が被害者に対して見舞金を給付することだ。

 愛知県の鉄道事故に関する損害賠償の判決は、認知症の人が他人の財産を損傷した際、加害者の家族に賠償責任を認めなかった場合は被害者の救済がなされないという問題点を浮き彫りにした。

「神戸モデル」はこの問題に対する「解答」になるとの期待が大きい。

「神戸モデル」は、事故救済と認知症の診断助成の制度を組み合わせている。65歳以上の市民は、自己負担ゼロで認知症診断を受けられる。簡易な検診と精密検査の2段階方式だ。

 認知症と診断された人が火災や事故を起こして高額の賠償を求められた際、最大で2億円を支給する。また、認知症によって責任能力がないと判断されても、被害者に3千万円までの見舞金が支払われる。

 事故救済制度の申込件数は、すでに1584件(5月8日現在)。支給対象となるために必要な認知症診断(1月末から先行実施)は、第1段階の認知機能検診の受付件数が7886件(5月8日現在)。市民の関心は高い。

 日本総研が神戸市以外の認知症に関する保険制度を導入した自治体にヒアリングしたところ、「市民の関心度が増している」「自治体が把握していなかった認知症の人を把握できた」などの副次的な効果があることがわかった。

 だが、保険制度を導入するかどうかについては、副次的な効果も含めて総合
的な判断が必要だとしている。

 日本総研の紀伊部長は「『認知症イコール事故を起こす人』と、ネガティブに受け止められることがないように、市民への情報や啓発活動にも細心の注意が必要である。早期診断後のフォローや、そもそも事故に巻き込まれないための環境づくりを、あわせて進めていくことも欠かせない」と話している。

(ライター・小島清利)

週刊朝日  2019年6月21日号