事業化への検討を進める段階で、保険会社に問い合わせたところ、賠償責任だけではリスクが高く、判例も少なく、商品設計は困難とされた。このため、子供の自転車運転に関する賠償責任の保険事業を参考に、保険会社と意見交換をして仕様を組み立てた。

 全国初の取り組みが話題となり、民間保険会社のほうから様々な提案があったため、入札形式で市の意向に沿った保険内容で実施できるようになったという。今年2月に2回目の保険内容の改定を実施し、鉄道事故について、鉄道車両の損壊のない遅延損害にまで対象範囲を拡大した。

 被保険者は、市の制度である「はいかい高齢者等SOSネットワーク」の登録者。この制度は、ひとり歩きの心配がある高齢者の個人情報(登録者の氏名、住所、生年月日のほか、認知症の程度や身体の特徴)を登録し、市と地域包括支援センター、在宅介護支援センター、警察署などの関係機関と情報共有する。登録者の希望があれば、鉄道やタクシー、バスの交通機関への情報提供も行う。

 登録者は、小型GPS端末付きのシューズを利用した「はいかい高齢者等位置確認支援事業」を利用できる。

 家族などが、パソコンやスマートフォンで位置情報を検索できる。行方不明になったときに早期発見・保護につなげる狙いだ。

 登録については、ハードルを高くせず、地域包括支援センターか在宅介護支援センターの職員が外出リスクがあると認めれば、診断がない場合でも登録可能だという。現状の保険制度では、登録者1人に対し、市が2250円を全額負担している。

 また、認知症高齢者の鉄道事故の現場となった大府市では、最高裁判決を踏まえて、全国初の認知症に関する総合的な施策を定めた条例を制定した。さらに、先行する大和市を参考にし、個人賠償責任保険制度を導入した。条例に基づいた制度で、認知症によって行方不明になり、事故にあった人、または、その家族を救済する狙いだ。

 大府市民を被保険者(補償対象)とし、市が契約者として一括して保険に加入し、保険料の支払いをする。市民の自己負担はなく、市は加入者1人当たり、年2千円を保険会社に支払う。「個人賠償責任危険補償特約(賠償事故解決用の特約)」として補償金額1億円、「傷害死亡・後遺障害保険金(主契約)」として、82万5千円まで補償される。

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