聞いた瞬間、「おいっ!!」。3拍おいて私は彼奴の頭をひっぱたいた。前職はコミュニティセンターの受付に一日中座って、フラダンスサークルに洋室の鍵、茶道教室には和室の鍵、「鍵をひたすら渡す・受けとる」それだけのアルバイトだったらしい。「それだけ」って……百歩譲ってそれもいい。だが20代前半の男がやるバイトか? お爺ちゃんお婆ちゃんが年金で足りない分、ちょっとだけ贅沢するためにやる仕事だ! 興味持って損したわ!! たわけっ!!
……なんだっけ? あ、『いだてん』! 録画を何度も繰り返しみても、一刀がどこに出てるやらまるでわからない。
悔しいが電話して聞いてみた。「わからないんですか? 兄さん……ふふ、しょうがないなぁ……」。目の前にいたら首を絞めてしまいそうだ。電話で良かった。「どこに出てんだよっ!?」「じゃ兄さんにだけ言いますよ……寄席で鳴ってる太鼓。その音とバチを持った手が『私の』なんですよっ!!」。手タレである。音タレである。でも凄く嬉しそう……。「……一刀、良かったな! ナイスっ! キャリアアップっ!」と言って私は電話を切った。………ん? なんだっけ……そうそう………『いだてん』っ!!
※週刊朝日 2019年2月8日号