東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野教授の古屋純一歯科医師(本人提供)
東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野教授の古屋純一歯科医師(本人提供)

 国民の8割がかかる歯周病。近年、認知症との関連が注目されており、さらにはがんの手術前後にも口腔機能管理は重要だといわれています。「口から考える認知症」と題して各地でフォーラムを開催するNPO法人ハート・リング運動が講演内容を中心にまとめた書籍『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』では、歯周病と認知症、がんとの関連について紹介しています。東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野教授の古屋純一歯科医師、同助教の中山玲奈歯科衛生士が解説します。

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 日本では65歳以上の4人に1人が認知症もしくは予備軍と言われています。また、歯周病に関しては人口の8割が罹患(りかん)していると言われています。どちらも身近な疾患であり、歯周病と認知症の関連について調査した報告は数多く存在します。この関連性については、二つの視点から調査が行われています。

 一つ目は、認知機能の低下により口腔衛生管理が困難となり、口腔の衛生状態が悪化する可能性です。先行研究によれば、認知機能の低下がみられない高齢者群と比較したところ、アルツハイマー型認知症(AD)患者のほうが、口腔の衛生状態は不良であるという報告があります。認知機能が低下することにより、自分で口腔衛生を保つことができなくなるだけでなく、本人以外が支援を行う際に抵抗を示すため、良好な口腔衛生を維持することが困難になり、歯周病が悪化するのです。

 二つ目は、歯周病原細菌に対する宿主の免疫応答により引き起こされる炎症性サイトカインの影響です。歯周病を有していると炎症性サイトカイン(TNF―α)の産生が増強され、歯周病原菌が産生する毒素とともに血流に拡散するため、血管の損傷を引き起こす可能性があります。それらがアミロイドβタンパク質やマクロファージによる炎症反応を引き起こし、神経細胞障害が生じることで、ADの症状を増悪させうると考えられています。

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口腔内の細菌数減少