■術前の口腔ケアで肺炎のリスクが減少

 一般的に、がん手術直後や化学療法の加療中・加療後は、がん患者の体力が低下し、肺炎のリスクが高くなると言われています。術後肺炎の発症率は2.6%から3.5%程度とされ、肺炎の重症度と死亡率、入院日数について関連性があると言われています。

 術後肺炎の原因の一つとして、口腔内に常在する菌を含む唾液(だえき)を誤嚥(ごえん)することが挙げられます。したがって口腔衛生状態を良好に保つことが、肺炎のリスクを低減することにつながると考えられます。国内の大規模治療データを用いた報告によれば、歯科医によって術前から口腔ケアを行うことで術後肺炎の発症率と死亡率を有意に減少させることが示されています。

 また、食道がんや口腔がん患者に対する口腔ケアの効果についても報告があり、術後初期の炎症を減少させたり、術後肺炎の重症化を防ぐことが示されています。さらに、化学療法開始前に予防的に口腔ケアを受けていると、セルフケアしか行っていない群と比較して、術後の口腔粘膜炎のリスクが低減することも明らかになっています。

■術後のQOL向上にも有効

 このように、がん治療によって誘発される副作用や合併症の発症リスクを低減し、重症化を予防するために、術前からの口腔機能管理は重要です。それらのリスクを低減することができれば、平均在院日数が短縮し、治療の中断を防ぐことができ、投薬量を減量できるなど、間接的にも効果的であると言われています。

 また、早期からの経口摂取の再開にもつながることで、口から食べる楽しみを保ち、患者のQOL維持向上にも口腔機能管理は有効であると考えられます。

◯ふるや・じゅんいち
1972年埼玉県生まれ。東京医科歯科大学歯学部・大学院卒業後、岩手医科大学准教授を経て現職。専門は高齢者歯科学。入院患者の口腔機能管理、在宅訪問診療による摂食嚥下リハビリテーション・口腔ケア、認知症患者の口腔管理支援などを担当。

◯なかやま・れな
1989年東京都生まれ。東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科卒業後、2018年より現職。口腔機能や生活の質に関連した臨床・研究、口腔ケアに関する地域支援を行っている。

※『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』から