ある疫学研究によると、TNF―αの増加と歯周病原菌に対する抗体価の増加は、ADと関連する可能性があるとされています。実際に、AD患者の脳からは歯周病原菌が検出されているという報告もあります。また、定期的に歯科医院を受診し口腔衛生状態が良好であると、認知症の発症リスクが減少することも報告されています。さらに、別の疾患の治療のために非ステロイド性抗炎症薬を長期間にわたって服用している患者ではADの発症リスクが低いことも報告されています。

 以上のことから、慢性の炎症という観点から歯周病と認知症が関連する可能性は高いと考えられます。歯周病と認知症の因果関係についてはいまだ不明な点も多いですが、認知症患者に対し口腔衛生管理を行うことは推奨されます。

■がん周術期の口腔機能管理の重要性

 2014年時点で、生涯でがんに罹患する確率は男性62%(1.6人に1人)、女性47%(2.1人に1人)とされており、日本人の死因の第1位を占めています。このような背景から平成24年度診療報酬改定により「周術期口腔機能管理」が導入されました。

 これは、患者の入院前から退院後を含めた手術の前後の期間(周術期)に、歯科が包括的な口腔機能管理を行うものです。手術前に口腔機能管理計画を策定し、歯科治療を行うことで口腔衛生状態を良好にし、入院中は口腔粘膜炎の管理や術後の経口摂取に代表される口腔機能の管理を行い、退院後にも切れ目なく継続した口腔機能管理を行います。

 具体的には、口腔内の細菌数の減少(歯石やバイオフィルムの除去、ブラッシング指導)、感染源の除去(抜歯、う蝕(しょく)や不良補綴(ほてつ)物の治療)、治療に伴う副作用の説明(口腔粘膜炎など)で構成されています。

 平成30年度診療報酬改定では、地域包括ケアシステムの構築を推進するためにも、さらなる医科歯科連携を目的として、「周術期等」口腔機能管理となり、対象となる疾患が拡大されました。誤嚥性肺炎の予防や経口摂取の円滑な確立のために、さらなる連携が進められています。専門的な口腔衛生処置の評価も新設されました。

次のページ
術後肺炎の原因