初セリのマグロの解体ショーで華麗な包丁さばきをみせた木村清社長(c)朝日新聞社
初セリのマグロの解体ショーで華麗な包丁さばきをみせた木村清社長(c)朝日新聞社

 築地から移転して初めての正月を迎えた豊洲市場(東京都江東区)。5日朝の初セリで、青森・大間町産の278キロの本マグロが、史上最高値で落札された。その額、なんと3億3360万円(1キロあたり120万円)。これまでの最高値1億5540万円(2013年、1キロあたり70万円)の2倍を上回る価格となった。

 落札したのは、すしチェーン「すしざんまい」を運営する「喜代村」。同社によると、この278キロは1万5000貫分に相当。単純計算すると一貫あたり約2万2000円だが、同社はこれを通常価格の大トロ398円、中トロ298円、赤身158円(いずれも一貫あたり税別)で振る舞ったという。

 「すしざんまい」の店舗が密集する東京都中央区築地に住んで16年になる男性(59)は、3億円マグロのニュースを見た妻にせがまれて、5日夜に本店へ。1時間待ちの長蛇の列で本店はあきらめたが、わざわざ別の店舗に足を運び、30分並んだ。1人1貫限りの注文に、妻と中トロを選択。同チェーンで初セリの本マグロを味わうのは初めてだったが、「めちゃくちゃおいしかった。年初から験がいい」と声を弾ませた。冷やかしでほかのすし店ものぞいてみたが、どこもガラガラだったという。

 赤字覚悟の超ご祝儀価格での落札は、宣伝効果を狙ったものだろう。マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は、3億円もの落札金額の経理上の勘定科目は、実質的には「仕入れ原価」ではなく「広告宣伝費」になるだろうと話す。

NHKをはじめマスコミ各社が全国ネットで大きく報じ、SNS全盛時代の昨今、それがネット上でさまざまな議論を呼んでおり、広告宣伝費に換算すればペイしたと言えるでしょう。ネット上でざわつくには、期待を裏切るほどの驚きが必要です。今回のように『ケタ一つちがう額』でなければ、ここまでの話題にはなっていなかったはずです」

 確かに、直後からSNSでも「やり過ぎではないか」という声が続出。また、同じ金額を投じてマスメディアやネットの広告枠を購入する場合、企業は確実に情報発信ができるものの、消費者は「自社のためのCM、広告でしょ」と受け流す。話題になってメディアで紹介される方が信頼度が高く、訴求力がある。さらにネット上で賛否を呼べば呼ぶほど、少なくとも知名度は上がる。時代に即した賢いPR手法なワケだ。

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3億円の効果を成長の好循環につなげられるか