「超高級店なら眉をひそめる客もいるでしょうが、大衆店ですからターゲットとなる客層は私たち一般消費者です。木村清社長が意図せずとも、ここまで大きなニュースになり、ネット上をざわつかせているわけですから、会社としては結果的に成功ですね」

 また、西川氏はこんな芸当は大企業にはやりたくてもできないという。

「株式会社喜代村が、木村社長がオーナーの非上場企業だからできるのです。上場企業であれば、株主から『そんな金があるなら株主にもっと配当しろ!』と叱られます。ここまで常識外れの高額落札は、大企業では絶対に社内で稟議さえ上がらないPR手法です」

 初セリの本マグロの最高値については、昨年こそ水産仲卸「やま幸(ゆき)」が大間町産405キロを3645万円で落札したものの、2012年から一昨年までは喜代村が6年連続で落札してきた。本マグロの初セリといえば木村社長の笑顔が浮かぶ人も多いだろう。

「喜代村の初セリの最高値落札は、社長と会社のキャラが立ったPR手法として確立しています。『すしざんまい』のブランド周知に大きく貢献していることは間違いない」

 したたかなPR戦略といえそうだが、一点だけ、西川氏が懸念を示す。

「お店の知名度もさらに向上し、マグロにありつけたお客さんは喜んだでしょう。しかし、今回の超高額での落札を好循環につなげられるかどうかは、従業員にどこまで還元できるかにかかっていると思います。『すしざんまい、すごいね!』とお客さんが来店しても、その客が再び利用するかは、従業員の皆さんが提供する味とサービスで決まります」

 ただでさえ人手不足で、定着率の低さが際立つ飲食業界。すし店ならば、衛生管理にも細心の注意を払うなどサービスの質も求められている。つまり、従業員のモチベーションに店の評判がかかっているのだ。

 企業の成長にはPRも大切だが、つまるところ、企業は人なり。従業員還元で成長の好循環を生んで、来年も記録を更新してほしい。(本誌・緒方麦)

※週刊朝日オンライン限定記事