「僕がこんな役のわけないじゃないですか!」って映画会社に何度も問い合わせましたもん。そしたら「間違いないです」と。「もしかしてチャンス到来? 俳優としての立ち位置が変わるかも!」なーんて思ったんですが、でもね、そんなにうまくはいかなかった。

 4カ月の撮影期間中、僕はずーっと監督に叱られてました。かたや木村拓哉さんは「カッコイイですね、ああけっこうですね」って褒められて、僕はいっぺんも褒められない。「ああ、せっかく一生にあるかないかの役を頂戴したのに、チャンスを無駄にした!」って苦しくて苦しくて、胃がキリキリ痛みました。

 撮り終わってから公開されるまで、1年くらい間があったんですよ。その間もずっとつらくて。でも映画が公開されたら、お客さんがたくさん来てくださって。

――日本アカデミー賞最優秀助演男優賞も受賞。徳平役は笹野の知名度を一気に押し上げた。

「できなかった」って思っていたのは、結局自分の思い上がりだったんだと、演劇の神様に「パーンッ!」と横っ面を張られたような気がして、恥ずかしくなりました。

 山田監督の前で台本に書いてあるセリフを言うと「そうじゃない、ダメだ」って叱られるわけです。そうやって暗中模索で監督に言われるままにやると、自分が考えていた演技プランとか何も関係なく「無」になってそこにいる。そんな自分を「ダメだった」と思っていた。

 でも映画を見て、監督が言っていたことがなんだったのかわかりました。監督は「じいさんを演じようとしている」ことを排除したかったんです。58歳にして新たな演技の世界に放り込まれたというか。演技っていうのは、本当に終わりのない修業だなと思いましたねえ。

――70歳の今も、さまざまな役に引っ張りだこだ。「ここに笹野あり」と思わせるような、作品にピリッとスパイスを利かせる役も多い。

 自分の演技に納得した瞬間なんてまだ、ございません。すごい先輩たちを見てきましたからね。吉田日出子さん、津川雅彦さん、中村勘三郎さん……一緒に演じていると引きずり込まれるんですよ。「カット!」って声かかった瞬間に息切れして、動悸がするくらいエネルギーを吸い取られる。

 あれが役に魂が宿る、っていうことなのかな。本当には入ってないのかもしれないけど、あたかもそういうふうになる。自分もそんなふうに演じられたらいいな、と思いますねえ。

(聞き手/中村千晶)

週刊朝日  2018年12月28日号