戦時下で多くの命を奪った「脚気」が感染症と疑われた理由 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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戦時下で多くの命を奪った「脚気」が感染症と疑われた理由

連載「ワインは毒か、それとも薬か」

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岩田健太郎週刊朝日#ヘルス
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など

日本の軍隊で脚気が流行し、多くの軍人が命を落とした日露戦争。ビタミンB1が入った麦飯などを食べさせた結果、海軍の脚気は激減した(写真:getty images)

日本の軍隊で脚気が流行し、多くの軍人が命を落とした日露戦争。ビタミンB1が入った麦飯などを食べさせた結果、海軍の脚気は激減した(写真:getty images)

 要するに、パスツールもフォン・リービッヒも正しかったのだ。生物学者目線と化学者目線という違いはあったが、彼らは同じことを観察していた。生物がアルコール発酵を行う。酵素を使い、化学反応を使って。

 どちらも正しいことを言っているのに、ちょっとしたボタンの掛け違いですれ違うってこと、よくありますね。パスツールとフォン・リービッヒのときもそうだった。両者は敵対し、論争を重ねたのだ。微生物が発酵の主役であるというパスツールと、微生物は関係ないというフォン・リービッヒの争いだった。今から考えると、フォン・リービッヒは実に惜しかった。

■理論と観察の融合と化学と生物の連携

 結局、ドイツのエドゥアルト・ブフナー(1860~1917)という化学者が、兄で微生物学者のハンス・ブフナー(1850~1902)と協力し、発酵が「微生物の作る酵素(と後に呼ばれるもの)」によって起きることが示され、この問題は決着がついた。パスツールの理論とフォン・リービッヒの観察の融合であり、化学と生物学の見事な連携であった。

 そしてこの融合は生物学と化学の統合、「生化学(biochemistry)」という新たな学問領域の誕生でもあった。生化学は非常に重要な学問領域であり、例えば医学部に進学した医学生にとっては必須科目である。研究領域としてもホットな学問分野である。

 生化学と臨床医学が密接につながっているトピックは数多い。例を一つ挙げるならば、ビタミンである。ビタミンとは、体の中で作ることができないけれど、生命維持のために必須な物質のことだ。要するに飲食物から摂取しないと人は生きていくことができない。

 ビタミンが足りないと、人はいろいろな病気になってしまう。その病気は、足りていないビタミンを補充することで治る。例えば、1910年に鈴木梅太郎が発見したオリザニン(ビタミンB1)が足りないと脚気(かっけ)になる。脚気になると足腰が弱り、フラフラになって歩けなくなる。だから「脚気」という病名がついたのだ。歩けないだけでなく、そのままほうっておくと心臓が止まって死んでしまう。


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