幼い頃、映画「ゴッドファーザー」で、マイケルの兄ソニーが、妹が夫に殴られているという嘘に騙されカッとなって家を飛び出し、銃でババババババと殺されるシーンを観て、頬を叩かれた気分になった。お前はこっち側の人間だ、と天から啓示を受けた気がしたのだ。後先考えずに、どうしようもない思いで走り出し、そうすることで思いも寄らぬ時と場所で撃たれる側だ、私は。

 東京医大の差別入試が発覚したときもそうだった。報道を見て腹が立ち、事件発覚当日に「東医大の前に集まろう」とネットで呼びかけた。翌日には100人くらい(主に女性)が集まり、怒り、泣き、声をあげた。1時間ほどで警察が来て「近所からクレームが来ている」と言われた。私は「この指とまれ」の立場で抗議運動をするのは初めてだったので、近所からクレームが来るという発想も警察がワラワラ集まる想定もしていなかった。解散を促され、はいはい、と帰り支度をしていたら、集まっていた記者の人に「当事者ですか?」「医学部受験したことがあるのですか?」と聞かれて我に返った。え? 当事者って何? 私、大学が女を差別したので、怒ってるソニーですが……。

 ソニーとして生きる。ちっともいいことなんてない。わかってる。でも寿司屋のカウンターでソニーを抑えながら、私は鯵の味がもうわからない。止められないのだ。……さて、どうする!? で、結論を言えば、男たちは医学部の話題まで行かず(←ニュース読んでないのか? 時事ネタ語れよ!とそれはそれで心の中で毒づく理不尽な私)、「石原慎太郎が~」「長嶋茂雄が~」、お前友だちかよ!?みたいな情報をぺらぺら上機嫌でしゃべり飲み続けていた。人間とは、いったい。フェミとは、いったい。私は、いつまでソニーなのか。

週刊朝日  2018年11月23日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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