しかし、歯科医院が患者さんを集める方法は、看板広告やホームページだけではありません。代表的なものの一つが「患者さんからの紹介」です。口コミという言い方もできるでしょう。

 私が最初に開業した歯科医院は、ビルの3階にある奥まった部屋でした。周辺に看板は出していなくて、ビルの入り口の看板にかろうじて歯科医院名が出ているだけでした。私の場合、勤務医をしていたときの院長が「患者さんをそのまま連れて行っていい」と言ってくれて、もちろん患者さんには説明して選んでもらう形をとりましたが、開業当初からある程度の患者さんが来てくれました。そこから患者さんの紹介で新しい患者さんが増えていきました。看板を見て来院したという患者さんは年に3人ほどしかいなかったと記憶しています。

■歯科医院選びはレストラン選びに似ている?

 口コミでなりたつ歯科医院は、当院のように、自費診療で1時間に1人の予約制で治療を実施しているような歯科医院になります。

 そうした歯科医院は歯科医師の得意とする治療を、時間をかけて患者さんに提供したい、という理念でやっています。ただし、その分、治療費が高くなります。

 患者さんの中には、「できるだけ安い費用で治療を受けたい」「多忙なので、まずは痛いところだけを治したい」という人もいます。

 だからこそ、あらかじめ治療方針や理念を知ったうえで来院してもらうほうが、トラブルが少なく、都合がいいのです。

 こう考えると歯科医院選びはレストラン選びに似ていると思いませんか? レストランと一口にいっても、ファミレスから高級料理店まで、さまざまなタイプがある。費用だけでなく、サービスもそれぞれ違います。そして今日、どこで何を食べるかはあなたが何を求めているかで決まります。洋服であれ、旅行先のホテルであれ、あらゆるものに同じことがいえますが……。

 歯科医院をどこにするかは、患者さんのニーズによって変わってきます。必要なものを提供してくれる、自分に合った歯科医院が一番いい。ただし、忘れてはいけないのは歯科医院が自分の大事なからだの一部である、歯の治療をあずける場所であるということです。

 広告を出しているかどうか、費用が安いか高いか、保険診療の有無にかかわらず、予防の大切さを重視している歯科医院であることを絶対条件として、どこにかかるかを決めてほしいと思います。

◯若林健史(わかばやし・けんじ)/歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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