(イラスト/阿部結)
(イラスト/阿部結)

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「背中にお絵かき」。

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 子供の多くは無邪気でかわいいものだが、無邪気さは時に戦慄の瞬間をもたらすことがある。

 大センセイ、銭湯が大好きで、よく昭和君を連れて銭湯へ行く。

 最近の銭湯はとても進化していて、泡風呂、電気風呂、薬草湯にサウナは当たり前。最先端の銭湯には、炭酸泉や流れる湯船なんてものまであったりする。

 さらに手ぶらセットといって、手ぶらで出かけていってもお風呂に入れる必要最小限のセット(石鹸、シャンプー、タオル)を200円ぐらいで売っている銭湯も多く、460円(東京都の場合)はちょっと高いと思うけど、至れり尽くせりで大満足なのである。

 さて、旗の台にある最先端銭湯に昭和君と出かけていったときのことである。

 暖簾をくぐって脱衣場に入ると、目の前でそのスジの方がふたり、体を拭いている真っ最中であった。どうやら親分、子分の関係らしく年齢差が大きい。そして、おふたりとも見事な彫り物を背負っておられる。

 一般的に、銭湯の入り口には「入れ墨の方入場お断り」という貼り紙がしてあるものだが、さすがに番台を通る時に入れ墨のチェックはできないだろうし、浴室内でそういう人を発見しても、たぶん番台に通報する客はいない。かくして、たまにではあるが、「背中にお絵かき」している方に遭遇することと相なる。

 昭和君は広い脱衣場が嬉しいらしく、フルチンで駆けまわっている。一刻も早く浴室に入れなければと思った矢先、彼の声が脱衣場に響きわたった。

「パパ、見て。パパ、これ」

 見つけてしまったのだ。昭和君、紋々のおふたりがガニ股で所狭しと歩き回る、その背後にぴたりと張りつき、喜々としておふたりの背中を指差している。

 目で、「よしなさい」と必死に合図を送っても、ちっともやめようとしない。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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