試飲は、日本酒ジャーナリストの松崎晴雄さんが厳選した18銘柄で行われた。

「地域ごとにその地域を代表するもの、ここ数十年、定番になっていて入手しやすいもの、という基準で銘柄を選びました」

 先の柴本教授が、とろみやゼリーの状態を見て嚥下食としての「物性」を備えているかどうかを判定し、松崎さんが元の味や香りとの比較を行った。

 当日は銘柄ごとにその場で「とろみ酒」「ゼリー酒」を作り、試飲していった。

 柴本教授は、二つのことを意識したという。

「のみ込みやすいかどうかということと、嚥下障害の方が受け入れられる味かどうかに着目しました。一部に刺激が強くなってせきこみを誘発するものがありましたが、『物性』はすべてが合格でした」

 肝心の味はどうか。

「香りがあって華やかなお酒や、すっきりとしたさわやかなお酒は、質感も特徴も出ていていいと思いました。香りの高いものはそのまま移行する感じでしたし、にごり酒もおもしろかった。とろみ酒よりゼリー酒のほうがアルコール感が薄まる印象ですが、とろみがあって甘くて濃いお酒はゼリーにしてもおいしかったですね」(松崎さん)

 松崎さんが「酒の特徴がよく出ている」と評価したお酒は「とろみ」で6銘柄、「ゼリー」で2銘柄だった(文末に記述)。

「このうち浦霞、末廣、黒龍、月の桂、天山の5銘柄は、とろみ・ゼリーの両方で楽しめる味になっていると思いました」

 結果の全貌は先の「ご当地嚥下食ワールド」に掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。

 ところで、とろみ剤やゲル化剤は通信販売が主流だが、ドラッグストアで買えるようにもなってきている。だから、嚥下酒は家で、しかも地元のお酒で試せる。

 しかし、そもそも、嚥下障害の人がお酒を飲んでもいいのだろうか。

 在宅医療の専門家で、大阪で嚥下障害の人々にチームで積極的に「食支援」を行っている医療法人社団日翔会の渡辺克哉理事長は、

病気でアルコールが禁忌の場合はダメですが、在宅の患者さんが望むのならサポートしたいですね。主治医に相談してからがいいが、在宅医でノーと言う人はあまりいないと思います」

 作る場合に注意することはあるのか。

「とろみ酒の場合、適度にとろみをつけることが大切です。人によって合うとろみ具合が微妙に違うので、そこは家族が微調整をしてほしい。作り方では、空気を入れないようにかき混ぜることがポイントです。ジャボジャボ混ぜるのではなく、少しずつとろみ剤を入れながらサラサラかき混ぜてください」(先の柴本教授)

次のページ