ダヴィドは躊躇しながら打ち明けます。実はうつや不安感の治療に関する本を書きたいのだと。マイケルはうれしそうに話します。「ダヴィド、君の人生でほかに何をすべきなのかはわからないけど、その本だけは絶対に書くべきだよ」

 彼はすぐに書き始めました。そして、その時のことをこう振り返ります。

「私は自分の道を発見した。マイケルは私の生命の小さな炎を再び燃え上がらせることに成功したのだ」

 以前に書きましたが(5月25日号)、私にとっても執筆は重要な「ときめき(生命の躍動)」のひとつです。ですから、よくわかります。文章を書くことは生きるエネルギーを引き出すのです。

 彼はこう書きます。「病気との闘いは人間の内なる熱い冒険である」。病気との闘いを冒険(生命の躍動)ととらえるのですからたいしたものです。

 ダヴィドは本の執筆をきっかけに、がんと闘う生命の炎を復活させました。それはがんとの闘いだけでなく、認知症の予防にも有効であるのは、間違いないと思うのです。

週刊朝日  2018年9月14日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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