自分の名前がすぐに出てこない患者さんが、リズムに乗りながらだと自分の名前が言えたりするのだそうです。通常は過去のことを思い出すことができない人が、昔懐かしいなじみの歌を歌ったり、聞いたりすることで、昔のことをはっきり思い出し、その思い出を語ってくれたりするというのです。

 認知機能が低下してしまって、会話が困難になっていても、ご本人が好きな歌だと歌うことができて、患者さん同士が交流することができるそうです。そういう事例を聞くと、音痴な私もいざというときのために、好きな歌をいくつか持っておいた方がいいなという気になります。

 さて、こうした音楽のもつ力は認知症予防に対しては、どう働きかけるのでしょうか。

 それは、やはり「心のときめき」だと思います。すでに書きましたが(5月25日号)、私は長年のがん治療の現場での体験から、心のときめき(生命の躍動による歓喜)こそが免疫力、自然治癒力を高める要因だと確信しています。

 音楽を愛する人にとって、音楽はまさに心のときめきを生み出すものです。それは、私にとって太極拳が心のときめきを生むのと同様だと思うのです。

週刊朝日  2018年8月17-24日合併号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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