今回、日本ボクシング連盟の333人が文部科学省などに提出した「告発状」。

 次に2016年のリオデジャネイロ五輪の成松大介選手に日本スポーツ振興センターから助成された240万円を他の2人の選手に80万円ずつ分けられた疑惑。これは不正流用にあたる。

 それについて山根会長は「私、山根明が3人で分けろと指示しました」と不正流用を認めた。

 連盟の会長という立場にあって、助成金の使途については厳正を期さねばならない。しかし、山根会長はこうも言う。

「まず、成松にワシが話して、了解したので3人で分けたのです。連盟が助成金を申請したのは3人で、通ったのが成松だけ。他の2人も期待の選手。まあ、親心として分けろと指示した。これね、240万円を選手のために使うなら、分けてもかまわないとワシは考えていた。それがダメだというので、息子からもらったロレックスの腕時計を売って、160万円を成松に後日、送金した。助成金を飲み食いとかに使っていたらそらアカンが、選手のために使っておる。その認識が足らなかった」

「告発状」には12の問題が指摘されている。助成金以外の点について山根会長は両手を広げ、こう吠えた。「こう書いてくれ、全部ウソや!」

 山根会長のお気に入りの選手が勝つという「奈良判定」疑惑。2016年の国体では岩手県の選手が奈良県の選手に2度、ダウンを奪いながら、敗れた。

 ボクシング連盟の元理事で、山根会長の秘書役でもあった澤谷廣典氏はこう話す。

「兵庫県に芦屋大学というボクシングの強豪チームがあります。監督は奈良県出身で山根会長の子飼い。例えば、近畿大学と戦う時、その試合だけ関東から審判が呼ばれ、3年間(近畿大学が)、判定で負け続けた。岩手県の選手同様、2度もダウンさせても負けた試合がある。アマチュアボクシングで奈良判定は誰でも知っています」

 それに対して、山根会長は完全否定する。

「ワシは審判に奈良を勝たせろとか、芦屋大学を優位にしろとかいうわけない。

 審判も連盟で決めており、口出しなどしません。奈良判定という言葉ばっかり、これでもかと報じてますが、あなたね。ワシは奈良県の選手の試合、できるだけ見ないようにしている。それどころか、他府県の選手で、頑張っているのがいれば、一緒に食事してご馳走してり、お茶を飲んだりすることはあります。しかし、奈良の選手には絶対、それをしません。あえて自制してますのや。奈良判定なんて、起こりません」

 そして遠征先のホテルではスィートルーム、椅子は豪華な革張り、部屋には酒やお菓子などがぎっしり並べられる「過剰接待」問題について。333人の告発人に名を連ねている連盟の関係者はこう解説する。

「みんなで弁当を食べても、山根会長だけは豪華にしないと、激怒します。山根会長は鶏肉が好みでないのですが、ある席でうっかりミスで鶏肉が出された。すると『ここの連中は嫌がらせしているのか』と言われて震えあがったそうです。というのも、山根会長のご機嫌を損ねると、それが選手に跳ね返ります。海外遠征の選抜、助成金など山根会長の権限によるもの。そこで、マニュアルを作成して対応するようになったのです」

 しかし、山根会長は「過剰接待」についても否定。

「あんなもん、連盟が指示なんてしてません。勝手に向こうがやってます。革張りではなく、パイプ椅子にも座ってます。ホテルの酒やお菓子、豪華な部屋は、いつもミーティングを連盟の幹部や指導者とホテルの部屋でやるからです。だから、酒やお菓子はその時にみんなで飲み食いします。一晩で全部、なくなりますわ。あんなやすもんの酒、どこが豪華接待なんか、ワシはわからん。食べるのはせいぜい、カンロアメ1、2個くらい、間食はせんのですわ」

 「告発状」を出している再興する会は、8月8日に記者会見を開き、第2弾の告発を準備中だという。ますます、亀裂が深まる事態の中で山根会長は徹底的に戦うと宣言する。

 取りざたされている進退についても一蹴した。

「なんでワシが辞めんとアカンのか。絶対にやめません。ヤクザから脅され、連盟の不純な連中からも脅されている。そんなことで山根明は引退しません」

 東京五輪を2年後に控え、日本ボクシング連盟は告発合戦で今後、さらに迷走する可能性もある。(今西憲之)

※週刊朝日オンライン限定記事

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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