著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は漫画家・久住昌之さんの「スヰートポーヅ」の「餃子定食」だ。
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僕が原作を書いた『孤独のグルメ』は、おいしい料理を求めた“グルメ漫画”ではありません。主人公の井之頭五郎が空腹に耐えかね、たまたま入った店で小さなドラマが生まれ、ひとり飯の時間を楽しむといった物語。僕自身、行き当たりばったりで偶然おいしいものと出合うほうが性に合っているんです。
「スヰートポーヅ」もそうでした。最初に行ったのは、神保町の美学校に通っていた19歳の頃のこと。はじめてこの餃子を見たときは「なんだこれ?」と驚きましたね。一般的なヒダのある包んだ形ではなく、具を皮で巻いただけの棒状で。しかもニンニクが入っていないので、何本でもパクパク食べられます。ラー油ではなく、醤油に七味唐辛子をふって食べるのも珍しい。定食はこれに大盛りご飯とワカメの味噌汁、お新香が付きます。
決して派手さはないけれど、食事を終えて店を出てから「さっきのメシ、おいしかったなあ」としみじみと思い出させてくれる。こんな店との出合いは楽しいかぎりです。
(取材・文/今中るみこ)
「スヰートポーヅ」東京都千代田区神田神保町1-13/営業時間:11:30~15:00、17:00~20:00/定休日:日・月
週刊朝日 2018年7月6日号