Aさんの並外れた分析力と機動力でヒアリングはずんずん進んでいき、大センセイはその内容をしこしこと文章化していった。

「素晴らしい! さすがはヤマダさん。このドキュメントを読んだら、クライアントさんも納得でしょう」

 大センセイ、褒められるとおべんちゃらが言いたくなってしまう性格だ。

「いやぁ、苦労しましたよ。でもAさんの頭脳だったら、こんなレポート書くの朝飯前なんでしょうね」

「いやいや、文章書くってこの世で一番コストパフォーマンスの悪い作業でしょう。自分じゃ絶対に書きません。この時代、モノを作る側に回ったら負けですよ」

 Aさんはキックオフの時と同じ爽やかな笑顔で、こう言うのであった。

週刊朝日 2018年6月29日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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