カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
(c)カトリーヌあやこ
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 漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「マツコ、昨日死んだってよ。」(テレビ東京系 5月29日24時12分~)をウォッチした。

【「マツコ、昨日死んだってよ。」のイラストはこちら】

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 このタイトル、もちろん朝井リョウの小説『桐島、部活やめるってよ』のもじりである。「桐島」の使い勝手の良さ、ハンパない。「日大、会見するってよ」「官僚、セクハラしたってよ」とか、まったく万能だ。

 さて「マツコ・デラックスが昨日死んだ」という架空の設定で始まるバラエティー。白い棺に横たわるマツコ。喪服を着た滝藤賢一が「マツコさん、安らかなお顔してますね」と、葬式の司会者のように場を仕切る。そしてゆかりのある知人、YOUやミッツ・マングローブたちがVTRでマツコへの想いを語り、福山雅治から弔文が届く。

 生きているのに葬式を番組にしちゃう企画、テレビではけっこう定番だ。かつて「とんねるずのみなさんのおかげです」(フジテレビ系)が仕掛けた木梨憲武追悼番組は、うっかり信じた視聴者から抗議が殺到。今なら大炎上事態だ。

 その他にも、ビートたけしや桑田佳祐も葬式番組をやっていた。つまり棺桶に入るのはたいてい大物。みんながほめたい人たち。ほめながら、愛すべき憎まれ口もちょいと叩きたくなる。そしてその存在を論じ出す。たけし論、桑田論、マツコ論。どうせなら、みんな生きてるうちに聞きたいのか、ほめ言葉。

 だって、あの松本人志も言ってたから。「自分のお葬式のときにえぐいくらいの数の芸人が来てほしい」って。そして「きついときに助けられました。松本さんの笑いで救われました」と声かけてもらいたいと言う。びっくりするくらいストレートにベタ。ダウンタウンの松本にしてそうなのだ。人は自分の死に対しては思いっきりベタになる。

 マツコの追悼番組が静かに終わりかけたとき、滝藤が爆発する。「おいおいおい」と、現場のスタッフに問う。「お前らがマツコを殺したんだ」となじる。マツコはテレビという「下世話な玉手箱」に命を賭けて死んだのだと。滝藤の爆発的キレ芸によるマツコ論。

 すると、突如デジタル化したマツコが日本中の情報端末に出現する。たとえ肉体は滅んでも、マツコは永遠に電脳空間に生き続けるのだってオチ。すでにマツコのアンドロイドも現実に存在するってのに、それか~というオチだけど。番組中「もういいよ~、テレビは」と漏らしてたマツコが、死後もテレビに閉じ込められる。それがちょっと不憫。

週刊朝日 2018年6月15日号

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カトリーヌあやこ

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カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など。

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